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「わ…ワケわかんないこと言わないでよ! しかも『誰だ?』って また質問で返してるじゃないの!」 目の前の少女が怒っている。確かに、ワケがわからない。自分でも、そう思う。 混乱してるのかもしれない。冷静に考えてみよう。 ダメだ。何も思い出せない。 何もすることがないし、わからないので、ボーっと少女の行動を見ていた。 頭頂部の寂しい男となにやら言い争って、こっちに戻ってきた。なんだか顔が赤い。 「感謝しなさいよね、貴族にこんなことされるなんて、普通一生ないのよ!?」 どんなことしてくれるって言うんだ? そして何かごちゃごちゃしゃべりだした。 『我が名はルイズ……』だとか言っている。この子の名はルイズというのか。 少女、ルイズが手を動かしている。しゃがんで、と言いたいのだろうか。 多分そういうことだろうと推察し、しゃがんでやる。 キスをされた。唇が柔らかい。一瞬だけの口付けの後、ルイズは俺から離れた。 「ぐおっ!?」 突然、左手に猛烈な痛みが走る。 「心配しなくても、すぐに痛みは引くわ」 本当だ、もう痛くない。 気付いたらさっきの男が傍にいた。俺の左手を見ている。 「ふ~む、珍しいルーンだね」 その男は『る~ん』とやらから目を離して、俺の頭をちらちら見ている。 帽子がほしいんだろうか? それからその男が浮いた。名残惜しそうに帽子を見ている。 「すごいな……」 オレは思ったままを口に出した。 周りの奴らも、ルイズ以外が全員浮いた。人間って浮けたのか。 「なに? 魔法がそんなに珍しいわけ?」 「まほう?」 「魔法見たこともないわけ? こりゃ飛んだ田舎モン召喚しちゃったわ。飛んでないけど」 なんだ、魔法だったのか。人間って、魔法が使えたのか。 俺も飛んでみよう。 ダメだ、飛べない。 「どうやって飛ぶんだ?」 「聞いてなかったの? 魔法よ。でも平民のアンタにゃ一生無理ね」 へいみん? 平民ってどういうことだろう。 「飛べないのはお前も一緒だろ~? 『ゼロ』のルイズなんだからな!」 「飛べない同士、歩いて帰ってくるんだな!」 そんなことを言って、上の奴らは飛んでいってしまった。 「ほら、ボーっとしてないで、ついて来なさい!」 ルイズが俺を呼んでいる。特にすることはない。ついていくことにする。 原っぱの中をふたりで歩いていく。 ルイズは飛ぼうとしない。ひょっとして、オレが飛べないからだろうか。 ルイズは前を歩きながら平民がどうの召喚がどうのと呟いている。 「大体アタシ、ファーストキスだったのよォ~~!?」 「ルイズ」 「へ!?」 突然名前を呼ばれて驚いたようだ。立ち止まってこちらを振り返っている。 「いい天気だな…」 空を見上げる。ルイズも空を見る。 「…ええ…そうね………」 素敵な青空だった。
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眼前に迫る鉄槌じみた一撃。 それを後ろに跳び退いて避ける。 だが、それも不十分。 打ち下ろされた一撃に薄氷のように砕け散る地面。 乱れ飛んだ土塊が散弾となり彼の体に容赦なく降り注ぐ。 その威力は投石となんら変わらない。 痛みに耐えかね口から悲鳴が洩れる。 だが、それを耳にしても誰も救いの手など伸ばしはしない。 自分の周りを取り囲むように立つ人間たち。 その姿が、自分を観察していた白衣の男たちに重なる。 まるで悪夢だった。 自分の辛かった記憶も体験も全て向こう側に置いてきたと思った。 ここは自分が思い描いていた楽園だと思っていた。 それが積み木で出来た城のようにガラガラと崩れ落ちていく。 まるで過去が自分を殺しに追いかけて来たかのようだった。 腕に降り積もった土砂を跳ね除けながら、またも振り上げられる拳。 休む間など与えてもらえない。 痛みはあるが足は無事だ。 自分が動けなくなった時が最期だと彼は本能で理解した。 巨人の周囲を迂回するように駆ける。 しかしゴーレムは自身の巨体を僅かに動かしただけで、 再び彼を射程内へと捉え直す。 今度は進路上へと豪腕が振り下ろされる。 それより一瞬早く、彼は頭上に落ちた影に気付き反転を試みた。 だが慣性には逆らえない。 そして叩き付けられるゴーレムの拳。 至近距離で受けたそれは正に爆撃と呼ぶのが相応しい威力だった。 津波の如く押し寄せる土砂を全身で受け止める。 突風に舞い上がる木の葉のように彼の体が地面を滑っていく。 全身をくまなく埋め尽くす打撲と裂傷。 怪我のない場所を探す方が難しい。 よろめきながら、彼はそれでも立ち上がった。 足は満足に体を支える事も出来ず震える。 咳き込んだ口からは澱んだ血が吐き出される。 既に死に体と言ってもいい。 だが、彼の眼だけは死んでいなかった……! 彼を突き動かすのは『生への執着』だ。 以前の、檻の中にいた頃の彼ならこれを運命と思い諦めただろう。 だが、今の彼は違う! 彼は自分の意思で研究室を飛び出し運命に抗った。 そして新たな世界で生きる事の喜びを知った。 生命の価値を知った今だからこそ分かる死の恐怖。 彼は理解した。 生きる事は死に抗う事だと。 それを諦めた時に自分は死ぬのだと。 惨めでもいい。無様でもいい。 自分は必ず帰るのだ、彼女の元へと…! 「おいおい、よせよ。貴族同士の決闘は禁止だぜ」 「だまりなさい! もしアイツに何かあったらただじゃ済まさないんだからっ!」 突きつけられたルイズの杖に動じることなく、男はおどけて見せる。 魔法を使えない事は知っている。 爆発とて狙いを定められるものではない。 ましてやこちらは二人掛かり。 『ゼロ』の魔法など恐れる必要はない。 俺たちが真に恐れるべきは…。 「へえ。ただじゃ済まさないってヴァリエール家の権力でか?」 「っ……!」 自分を睨み付けながらもルイズが悔しげに下唇を噛む。 予想通りの反応に思わず吹き出しそうになるのを抑える。 いくらヴァリエールの三女とはいえ魔法も使えない欠陥品。 恐らく家の中では立場さえないのだろう。 それが親の力を借りる事に抵抗を感じさせている。 つまり、こいつを恐れる理由など何も無くなったという訳だ。 確かに男の思考はまさに正鵠だった。 だが一つだけ、彼は読み違えていた。 確かに彼女は決して実家の力など借りはしない。 何故なら家名に頼った時点で彼女の誇りが失われるからだ。 彼女のとって家名は重荷にしか過ぎない。 周囲からの期待と、そこから生まれる失望。 だが彼女は弱音を吐いたりはしない。 重圧に耐えかねて膝を屈する事など無い。 魔法が使えなくても、彼女は貴族の誇りだけは持ち続ける。 彼が読み違えていたのは彼女のその強さ。 だが彼らにそれを理解させる事など不可能だろう。 「ただじゃ済まさないってのは……こういう事よ!」 男の目前で杖を振り上げる。 家になんか頼らない。 私は自分の力だけで解決してみせる。 しかし振り下ろそうとした腕は途中で誰かに阻まれた。 男の仲間の仕業と咄嗟に背後へと振り返る。 だけど、そこにあったのは見慣れた赤髪。 「キュルケ…」 思わず彼女の名を呟く。 でも、どこか普段と雰囲気が違う。 男を睨む彼女の表情はいつもより険しかった。 「どきなさい」 単純明快に彼女は命令を告げる。 それを相手を屈服させる意思に満ちた高圧的な言葉。 だが声は冷静そのものだった。 ならば、相手の脅しにわざわざ従う必要などない。 彼女の視線に冷たいものを感じながらも男は牽制する。 「貴族同士の決闘は…禁止、されて…」 「決闘?」 男は自分の声がかすれている事に気付いた。 相手に気圧されている事を自覚していなかっただけ。 吐いた言葉は牽制になどなりはしない。 逆に、彼女はその言葉に対し妖艶な笑みを浮かべる。 そして自分の胸から杖を取り出し男へと突き付けた。 「貴方達の中に、この『微熱』のキュルケに決闘を挑む勇敢なメイジがいて?」 真っ向から向けられる視線と杖。 その恐怖に全身が硬直する。 男はキュルケの覚悟を知り、無謀な挑発だったと後悔した。 彼女は本気だ…。 決闘が禁止されていようと関係ない。 勝負を挑めば容赦なく相手を焼き払い灰燼と成すだろう。 家名に傷が付こうが学院を放逐されようが『やる』といったら彼女は『やる』。 その凄みが言葉だけで伝わってきた。 逆らってはいけない。 これ以上、彼女という火に油を注いではいけない。 炎の中に飛び入る虫のような運命を辿りたくなければ…。 「わ、分かった…」 どうせ今から向かったところで間に合いはしない。 大人しく命令に従い道を開ける。 後ろにいた俺の連れは何も出来ず、おどおどしているだけだ。 まるで平然と絨毯の上でも歩くかのようにキュルケとルイズが歩き去っていく。 自分が無事で済んだ事に胸を撫で下ろす。 「ああ、そうそう」 「!?」 振り返るキュルケに男達がびくっと身体を震わせる。 彼女は自分達を見ていない。 その背後にいる誰かへと視線を向けているのだ。 そこへと振り返り、再び身体が硬直する。 後ろではキュルケの使い魔であるサラマンダーが口から僅かな火を吐き出していた。 「もう邪魔してくる事はないと思うけど…一歩でも動いたら焼き殺していいわよ」 「きゅる! きゅる!」 「ひっ!!」 主の命に頷くサラマンダーに悲鳴を上げる。 大切な友を傷つけられて冷静でいられる人間なら、 彼女に『微熱』などという二つ名は与えられなかっただろう。 この後、彼等は存分に彼女達の怒りを思い知らされる事となった。 足止めを突破した彼女たちは広場へと向かう。 廊下を駆け回る彼女達の姿に周囲の奇異の視線が集まる。 だが、そんな些細な事に構っている余裕はない。 彼女は自身の持てる全力で駆ける。 脳裏に次々と浮かぶ最悪の事態を振り払いながら…。 処刑場と化した広場。 そこで彼は死地に活路を追い求めた。 目指す先は巨人の足元。 幾度回り込もうとしても決して逃れられない。 ならば自分から懐に飛び込む。 それが彼に残された最後の策だった。 突然の特攻に虚を突かれたゴーレムが一瞬戸惑う。 傷を負っているとは思えぬ渾身の疾走。 対するゴーレムの動きは鈍い。 恐らくは拳も振り下ろせて一度。 それさえ避けてしまえば逃げおおせる。 だが彼は失念していた。 ゴーレムの拳だけが脅威なのではない。 あの『巨体そのもの』が武器だという事を見逃していたのだ…! ゴーレムが前のめりに倒れる。 焦っての転倒ではない。 それは、その体格を利用したボディプレス。 城壁じみた土塊が雪崩のように迫る。 その範囲は拳とは比較にならない。 迂回していたならばまだしも彼が向かったのは前。 彼に逃げ場はなかった。 巨人がその身体で陽の光を遮るように、 彼の微かな希望の光も絶望の影に掻き消されていく。 地響きと共にゴーレムの身体と大地が接触する。 砂煙が舞い上がると同時に響き渡る使い魔の絶叫。 視界が晴れた先に広がる光景に生徒達が声を失う。 彼は胴から下を失っていた…。 ゴーレムの巨体に押し潰されて見えないが、 そこから溢れ出した異様な量の出血が全てを物語っていた。 呼吸も僅かにひゅうひゅうと空気の抜ける音を奏でるだけ。 かろうじて生きている、その表現が最適だろう。 先ほどから囃し立てていた生徒達も惨状に目を背ける。 取り巻きの男もさすがにやりすぎだろうと思った。 いくら大義名分があろうとやってる事は動物虐待だ。 ここまで過剰にやってしまっては自分達に非があると思われてしまう。 だが男は同時に安堵していた。 もう、あの犬は動けない。 戦いともいえない一方的な暴行は終わりだ。 あの犬を手違いで殺してしまう事も最悪予想されたが、 今から治療すれば命だけは助かるだろう。 ここまでやれば生意気な後輩に対して十分な制裁になった筈だ。 だが、それに反し男は杖を下ろそうとはしない。 それどころかゴーレムを再び起き上がらせようとしている。 「おい、もう十分…」 「まだだ!!」 取り巻きの言を遮る男の怒声。 突然の事に驚き、男の方を注視する。 獣のような荒い息遣い。 目は血走りながら倒れた犬へと向けられている。 男の取り巻きは事態を察した。 彼は正気を失っている、と。 愉しい。なんて愉しいんだ。 あんなちっぽけな生き物が相手なのが不満だが、 自分の力を思う存分振るって捻り潰すのは堪らない。 親父は何が愉しくて狩りなんかするのかと思っていたが、 成程これなら病み付きになるのも頷ける。 これがヴァリエールの小娘だったらどんなにか……。 自身の思い浮かべた凄惨な光景に身を振るわせる。 彼の察した通り、男は正気を失っていた。 自分の持つ暴力に溺れ、自身を見失っているのだ。 魔法は日常のように使いこなしている。 だが貴族間の決闘は禁止され、 平穏なトリステインでは戦争もそうそうあるものではない。 その力を実際の戦闘で使う機会などそうはない。 彼の深層にある不満はルイズの事ではなかった。 自分の魔法を思う存分振るい暴れたかった欲求不満である。 それがルイズという捌け口を見つけ、破壊衝動として現れているのだ。 ここまできて止められるものか。 そう。悪いのは全て『ゼロ』とその使い魔だ。 主どころか自分の身さえ守れなかった弱い使い魔と、 それを助けに来られなかった主。 もしアイツに少しでも同情の声があるならば。 これだけの数の生徒だ。誰かが止めに入っていただろう。 皆は俺を支持している、何の問題もない! それなりに切れる頭も全ては自分の弁護の為。 彼は理由が欲しかっただけだ。 力を振るうのではなく、彼は自分の力に振り回されていた。 しかし愉しかった時間もあと僅か。 後は死にぞこないに止めを刺すばかり。 今度、里帰りしたら親父と狩りにでも行くか。 だがそれだけでは今日のような興奮は二度と味わえないだろう。 いずれは慣れて飽きてしまう。 そうだな。その時は適当な理由で平民を狩るとするか。 その前にまずは盛大に最後の仕上げをするとしよう。 ゴーレムの巨大な足が緩やかに持ち上がっていく。 自身の巨体を支える脚。 破壊力は拳よりも遥かに上だ。 振り下ろされれば原型さえも留めないだろう。 放置しておけば死ぬであろう相手に、男は容赦すら思いつかなかった。 「……ここまで」 離れた場所から見守っていたタバサが呟く。 やはり何かの勘違いだったのだろうか…? 窮地に陥っても彼に変わった様子はなかった。 なら静観は終わり。 惨事を食い止めるべく彼女は動く。 校舎の一部が崩落した際に起きた怪現象。 その原因が彼女の使い魔にあるとタバサは睨んでいた。 だから、あの時と同じように身に危険が迫れば何かが起きるのでは…? そう期待したのだが上手くはいかなかった。 それどころか重傷を負うという予想外の事態まで起きてしまったのだ。 シルフィードに至っては、きゅいきゅいと騒ぎ出し今にも飛び出しそうな勢いだ。 同じ使い魔として彼とは仲良くしていたのだ、無理もない。 もし自分が制止していなければ、あのメイジは生きてはいなかっただろう。 まずはゴーレムの排除。 杖を掲げ、風の系統魔法を唱えるタバサ。 だが不意に呪を紡ぐ彼女の唇が動きを止めた。 幾度となく死線を乗り越えた勘だろうか。 風に乗って聞こえてくる異様な音が彼女の注意を喚起したのだ。 落ち着こうとする意思とは裏腹に高まっていく心拍数。 恐怖を堪えきれなくなった足が震えだす。 頭ではない、身体が理解しているのだ。 『アレに触れてはならない』と…! その音は男の耳にも届いていた。 既に虫の息の犬から響く奇怪な音。 似ている物があるとすれば獣の唸り声か、 彼のいた世界ならばエンジン音が最も近いだろう。 だが、どれもが誤り。 この場にいる者たちが耳にしているもの、それは『胎動』だ。 あらゆる生物を凌駕する潜在能力を持ち、 どんな環境下であろうと生存できる生命力を兼ね揃え、 己の身体を意思によって武装と化す『戦闘生物』 科学者たちの狂気が作り上げた『究極の生命』 それが今、異世界ハルケギニアの地で目覚めようとしていた…!
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深夜、寝苦しさに目を覚ます。 虚ろな頭で首を起こす。 視線の先には自分の脚に乗る黒い塊。 『それ』は生暖かい息を吐き掛けて自分を見下ろす。 あまりの気色の悪さに全身に鳥肌が立つ。 そして暗闇に慣れた眼がその生物を認識した。 薄暗い室内でありながら、ハッキリと浮かぶ蒼いシルエット。 月光の下、狂気に満ちた金の双眸が爛々と輝く。 ベッドから飛び出そうとしても足が動かない。 上に掛けた毛布の端から自分の爪先が微かに見えた。 夜の黒と対照的に白く映るそれは骨だけになった自分の足。 ひたり、ひたりと獣が体の上を歩む。 胴や胸、歩く度に焼き付くような痛みが走る。 通り過ぎた箇所の肉が溶け、骨格が無残な姿を晒す。 そして獣は終着点へと辿り着いた。 自分の顔の目前、振り上げられた足が額へと近づいてくる。 「や、止めろ…」 聞き遂げられる筈がない。 相手は自分達とは違う、文字通り『怪物』なのだ。 そこに感情や情けなどはない。 ただ殺す為だけに『怪物』は存在するのだ。 足が届く直前、机に置いてあった杖へと必死に手を伸ばす。 がむしゃらに掴んだそれを振り回し、ひたすらに魔法を放つ。 それでも怪物は死なない。 まるで自分の抵抗など無意味だと言わんばかりに見下ろす。 「ウワァァーーーー!!」 「どうした!?」 悲鳴を聞きつけた取り巻きの一人が男のエア・ハンマーで弾き飛ばされる。 叩きつけられた頭部からの出血が壁を赤く染める。 ようやく事態の深刻さに気付いた生徒の一部が教師を呼びに向かう。 その間も男は気が違ったように周囲の物や人間を壊し続けた。 彼が杖から手を離したのはそれから一時間後。 教師数人に取り押さえられ、強引に取り上げられての事だった。 唯一の武器を失った彼は怯えきっていた。 誰もいない部屋の隅を見つめ、まるで悪魔でも見たかのように、 顔面を蒼白にしたまま震えていた。 「むう…」 重軽傷者6名、寮塔の部屋は半壊、本人の物を含む使い魔が3匹死亡。 知らされた被害状況に、皺だらけのオールド・オスマンの額に更に深い皺が寄る。 事件を軽視したのが最大の原因なのだが後悔してももう遅い。 彼が思っていた以上に決闘を行った生徒はトラウマを負っていた。 無傷で済んだ事が逆に発見を遅らせてしまった。 となると他の決闘を目撃した生徒達にも悪影響が及ぶかもしれない。 今回の件がきっかけで余計に心理状況が酷くなった恐れもある。 事件を受けて問題の生徒は放校処分となった。 両親の方からも反対は無かった。 平民や使い魔ならまだしも貴族の子息に怪我を負わせたのだ。 方々手を回して大問題に発展しないようにするのが精一杯という所。 どうせ学院にいても針の筵。 それなら実家で静養がてら謹慎させるのが得策と判断したのだろう。 「残念じゃな…」 「学院内で怪我人が出た事ですか?」 「それもある。だがワシが言っているのは彼を正しく導けなかった事じゃ」 貴族にとって魔法は身近にある存在だ。 日常の些細な事にまで当然のように魔法を使っている。 だが魔法は決して便利なだけの代物ではない。 それを人に向ければ容易く命さえも奪い取ってしまう脅威なのだ。 だからこそ自分の力を自覚し、それに対して責任感を持ってもらいたかった。 決して安易に振るわず、自分の力に負けぬ強い心を持って欲しかった。 「『魔法を学ぶ』とは本来そういう事であるべきなのじゃが…」 やれやれと背もたれに体を預ける。 この齢になってもまだ自分の未熟を痛感させられる。 人に教えを説く事のなんと難しき事よ。 そしてなんと皮肉な事か。 オールド・オスマンが体現する魔法使いの在り様。 それに最も近い者が魔法を使えぬ少女だというのだから。 「それにしてもミス・ヴァリエールは良き使い魔、良き友に恵まれた」 関係者からの事情聴取や目撃者の話を総合し、明らかにされた事件の顛末。 その中で浮かび上がった幾つかの事実。 彼女の使い魔は己の命を奪おうとした相手さえも許し、 彼女の親友はミス・ヴァリエールを助けようと複数のメイジ相手に敢然と立ち向かった。 他の者たちも彼女に心配を掛けまいと決闘の事は伏せているようだ。 事件の首謀者達が救いがたい者達だっただけに、彼等の姿がオールド・オスマンには眩しく映った。 「良き出会いは幾万の財宝にも勝るもの……あいたたたた」 「ええ。でも良き師に巡り合えなかったのが彼女の不幸ですわね」 たまには良い事を言うと思いながら自身へと伸ばされた腕を捻り上げる。 少しは見直しても良いか知れないと思った矢先にこれである。 彼女内のオールド・オスマン株は急落を続け、既に原価割れを起こしている。 腕が折れるか折れないかギリギリまで極めた後、彼女は手を離し入り口へと向かう。 「いつつ……およ? どこに行くんじゃミス・ロングビル」 「ええ。生徒達の相談を受けようかと思いまして。 この事件で動揺が広がっているようですので、少しでも緩和になればと」 「なるほど。…どうやらワシは良き秘書に巡り合えたらしい」 「ありがとうございます」 恭しく一礼をして出て行くミス・ロングビル。 それと入れ替わりにコルベールが入ってくる。 その顔付きは真剣というよりも、どこか危機感さえ漂わせている。 合わせるかのように弛みきったオールド・オスマンの顔が引き締まっていく。 「…やはり彼はガンダールヴなのでしょうか?」 「判らん。だが伝説によればガンダールヴはあらゆる武器を使いこなし戦ったと聞く。 対して彼が使ったのは自分の能力だけ。それを考えるとどこか違う気がするのじゃが…」 そもそも武器が持てるかどうかさえ危うい。 だが、ルーンは間違いなくガンダールヴの物。 伝説自体に間違いがあるのか、それとも全く別のルーンなのか。 いくら考えようとも答えは出ない。 「とりあえず、この件は内密にしておこう。 彼がガンダールヴであろうとなかろうと比類なき戦闘力を持っているのは確か。 アカデミーの連中に嗅ぎ付けられれば事じゃからな」 「はい…」 沈痛な面持ちでコルベールが視線を落とす。 彼はアカデミーがどういう所か痛いほど理解していた。 もしミス・ヴァリエールの使い魔の事を知れば平気で解剖しかねないだろう。 「ところで、そろそろ品評会も近いが『例の物』の解析は終わったかね?」 「『光の杖』の事ですね。それが言いにくいのですが一向に進んでおりません」 「何じゃと…?」 「どうも『光の杖』と共に発見された書物全てが『光の杖』とは無関係の物のようです」 「むう…止むを得まい。元々、王宮から押し付けられた物じゃからな。 この短期間で解析しろなど最初から無理があったか」 「一応、書物に書かれている内容についてはまとめ次第ご報告します」 「うむ、任せたぞ」 ミス・ロングビル同様一礼し、部屋を後にするコルベール。 そして一人残されたオールド・オスマンがパイプを吹かしながら思考を巡らせる。 数ヶ月前に発見された『光の杖』。 発見当初、近くに大量の書物があった事から解析も容易いと判断されたのだが、 それも無関係の物と判った以上、誰にもアレは扱えまい。 いや、それで良かったのかもしれない。 過ぎた力は身を滅ぼす。 ましてや自分達の理解を超えた物は尚更だ。 そんな物騒な物は『破壊の杖』同様に宝物庫の片隅で、 永遠に眠りについてもらうのが正しい在り様というもの。 しかしオールド・オスマンにはある懸念があった。 『光の杖』がもし武器の類だとしたら威力が強すぎる。 ましてや周囲に落ちていた残骸から、これは室内に取り付けてあった事が予想されている。 戦場ならまだしも、どうして建物内にそんな物があったのか。 全くの仮説なのだが、彼はその疑惑を拭い去る事が出来なかった。 “そこには『光の杖』などより遥かに『恐ろしい物』があったのではないか…?” 故郷へと帰る馬車の中で男は爪を噛んでいた。 幼少の折に咎められて以来、無くなった筈の悪癖。 それが耐え切れぬストレスによって再発したのだ。 何故、自分が学院を追い出されなければならないのか? こっちは被害者であるにもかかわらず! 処罰を受けるべきはあんな怪物を呼び出した『ゼロ』の方だろうが! きっと裏から親が手を回したに違いない! そうだ! そうに決まっている! 理不尽な憎悪を燃やしながら男はそれでも諦めない。 魔法学院を放校されるなど一生ものの恥だ。 その悪評を延々と付きまとい、自分の出世の障害となるだろう。 それをどうにか取り消させ、主従共に葬り去る方法を考える。 男の口元に嫌らしい笑みが浮かぶ。 事は思った以上に単純だった。 アカデミーに密告すればいい。 学院長と親父の間では守秘の約定が交わされたが、俺の知った事じゃない。 そうすればすぐに怪物は捕獲され、眼球に至るまで解剖されるだろう。 もちろん主である『ゼロ』も黙って隠そうとした学院長も終わりだ。 王室への反抗と見なされ、処分は免れないだろう。 俺を罰した報いを受けさせてやる。 都合のいい妄想に浸っていた瞬間、大きく馬車が揺れた。 せっかくの良い気分を阻害され、杖を手に御者を怒鳴りつけに出ようとした。 しかし馬車の扉が開かない。 いくら押してもビクともしない。 様子を覗こうと窓から顔を出し、男は“それ”を目撃した。 自身のゴーレムの三倍は超えようかという土塊の巨人。 それが自分の馬車を掴み押さえつけている姿を。 「こんばんわ。貴族のお坊ちゃん」 「っ……!」 「御者はもうとっくに逃げたよ。随分と人望が無いんだねアンタ」 巨人の足元、フードを被った何者かが自分に語りかける。 何者かなどと聞ける筈がなかった。 みしりみしりと天井から響く音が、相手の機嫌を損ねた瞬間に死を迎える事を知らせる。 「ちょっと聞きたい事があってさ。 アンタが決闘したっていう使い魔について話してもらおうか」 フードから覗く口元が冷たく釣り上がる。 “お前のような小物などに興味は無い” そうハッキリと断言されたかのようで癇に障る。 だが、それは助かるかもしれないという彼の僅かな望みでもあった。 「ゴーレムを溶かした…それは魔法でかい?」 「魔法じゃない。そんなのとは違う。 まるで食べ物を消化するみたいに、あの怪物は全部溶かしちまう」 フードを被ったそいつは『決闘そのもの』にだけ興味を示した。 より正確には、怪物の性能だけを聞いていたのだ。 大体の事を話し終わると、そいつは背を向けて離れていった。 命拾いした安堵に肩の力が抜ける。 瞬間、天井がより激しい悲鳴を上げて鳴き始めた。 木材に走る雷のような切れ目。 「ま……、待て! 俺は全部話したぞ!」 「ああ。だけど話したら助けるなんて一言も口にした覚えは無いね」 再び浮かぶ残酷な冷笑。 こいつは怪物とは違う。 命乞いの意味も言葉も理解している。 そして、その上で取るに足りない俺の命を気まぐれで奪おうとする。 人の心を理解しながら平然と踏みにじる、それは往々にしてこう呼ばれる。 「あ…悪魔め!!」 それが彼の最期の言葉だった。 天井という支えを失った馬車は中の人間もろとも平面に潰された。 なんと喚こうとも彼女の耳には残らない。 どうせ名前さえろくに覚えていない相手だ、明日には顔さえも忘れてるだろう。 「……悪魔ね。そんな御大層なものじゃないさ」 それでも彼女なりの礼儀だったのか、物言わぬ死体を背に彼女は答える。 見上げるのは月。思い浮かべるのは宝物庫に眠る秘宝。 僅かな時間、本来の自分へと戻った喜ぶを詠うように彼女は告げた。 「アタシはただの盗賊さ」
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船着場の町。安酒場の安宿にはあらくれどもが集う。手には杯、腕(かいな)には女、 構えた腰にはふつくしい女の尻。数寄者が集い、剥れた欲を発散する。 「ではルイズ、あなたが先鞭をつけ、アニエスがそれに続く、それで構いませんね?」 「勿論。まあ、女子供に戦働きをさせたとあらば、騎士の名誉に瑕瑾を残しますゆえ、後 添えは無用なのが本意ではありますが」 「ぬぬぬ、こここのっ、小娘! 貴様、我を小僧と侮るか! お前はこのアニエスがじき じきにブッ潰す!」 ドカン、とテーブルを蹴り上げたおかっぱが、桃髪の悪魔に凄む。 『あ。あーああ。言っちゃったよ』 『だよなあ、アレは駄目だよな。あの小娘は姐さんの迫力を知らねえからな』 『オラオラと無駄無駄、どっちに賭ける?』 『そりゃオラオラに決まってんだろ。アレに勝てる奴はいねえ』 『ちッ、賭けにならねえなオイ』 『そりゃそうだ』 『そりゃそうか』 「決闘、いや『手合わせ』を願おうではないか」 ちょうど出航までに半日の刻がある。ここで上下関係をはっきりさせておくのも、ま、 無益ではあるまい。ヴァリエールは渋り困るフリをしつつ、それに応えた。 銃。たかが手合わせで銃を使うのか、こいつは。当たって死んだらどうするつもりなん だろう? いやでもアレはどう見ても必殺の裂帛、があるな。銃がなくともこいつは殺す 気でそこにいるし、何というかその、『漆黒の意志』でもって何が何でもブチ殺さないと 気がすまないのだろう。逆に『始末』されるかもしれないという危険を、常に『覚悟』し ているのだろう。 侮れない、これは侮れない。侮ったフリをしたのが、うまいこと効いて欲しいがそれも どうか。しかしまさか殺してしまう訳にもいくまい。どうする? 阿呆が集い暴れる安酒場、夜はこれからだ。二人の勝負も、未だ終わらない。わらわら と集ってきたボンクラどもが、賭けを始めてしばらく経つ。姫と爆発をそれぞれ応援して はいるが、潰れたら喰う気満々だ。既に転がったボトル、三本。 「……さて、ルイズ。そろそろ始まるわよ」 「予定通り、ですか。さすが」 『ちょっと待ちたまえ。君たちは既に戦闘可能な状態では……』 どちらも酔眼極まりながら、酔いどれを装うでもなく演じながら、しかしその眦だけは この場の全てを、捉えている。 その喧噪の外、賑やかな明かりに隠れ、目標をただ、睨む集団。 「始めようか」 気楽に、むしろこれから向かうのが、恋人の家であるかのように。軽やかに、部下に状 況の開始を告げる。 「……ん?」殺気、のようなものを感じて、ルイズが少しだけ速く杯を空ける。来たか。 よろしい、では始めよう。 「OK、野郎ども。パーティータイムだぞう」 傭兵どもが獲物を求めて走り出す。女が二人、これを好きにして殺せ。いい依頼だ。や りたい放題だ! 圧迫で吹き飛んだ扉、無数に飛来する矢。続いて鬨の声と共に殺到する傭兵たち。鼻の 下を伸ばして群がっていたボンクラどもをテーブルごと蹴散らし、酔眼の最後のきらめき を向けて姫が命じる。 「るいず! ばくはつのふたつなはだてじゃないってところを、みせてやりなさい!」 「あいよ!」 『もうだめだ……こいつら完全にイカれちまってるぜ……』 ぐごお、と、お休みの挨拶が聞こえるのを背後に、火酒によってリミッターを外された ルイズが、凶悪な笑みをらんらんと瞳に浮かべ、腰から二本の小刀を抜いた。メイジなれ ば己の半身たるべし杖がないことなど、残念ながらまるで気にしていないようだ。 「出ていけ。ここは俺の店だ」と凄んだデブの店主は、孤独な食事を邪魔されて怒る、ハ ードボイルドな四十男にアームロックを極められ、お…折れるぅ~と悶絶している。 「申し訳ありません! 遅参いたしました」 階下に轟いた破壊音に、ようやく気づいて駆けつけたアニエスが、テーブルと壁の隙間 に蹴り込まれた姫の許に跪く。 「いいのよアニエス~ほらみてあのこ~、すごくたのしそう~」 「あいつ、笑ってやがる……」ッ、 「殿下、ここはひとまず安全な場所へ」と、眼前に広まるかもしれない惨状から、むしろ 己を庇うかのように、小柄な主君を抱えて裏口へ走る。 『十時から突き! 二時の奴に切り上げつつ左反転』 「あいよ」 『デカいのが来るぞ。デルフじゃないんだから受けるなよ』 「あいよ」 『腹はいいが胸には刺すなよ、骨に当たると足が止まる』 「あいよ」 『狙うのは脇・首・手首だ。まあルイズは小さいから首は捨てていい』 「誰が“小さい”ってぇぇ?」 『いやいやいや、決してその、君の身体的特徴のことでは……』 「くそっ、お仕置きができないのがクソ悔しい!」 たかが傭兵、しょせん烏合の衆。それなりの斬り合いができたところで、この二人の相 手ができるはずもなく、なす術もなく切り伏せられていく。 『よし、充分だ。これで奴らは壊走する』 「あいよ」 『デルフを回収して脱出するぞ、姫様と合流だ』 「あいよ!」 止めを求める声が虚ろに響く、半壊した安酒場。無様を晒した兵の生き残りが集まる。 「兄貴! 十六名死亡、八名重症です! 申し訳ありません。女と思い、油断してしまい ました」 「あいつは、ただの女じゃねえよ。まともな殺し合いができる相手だ」嬉しそうだ。とて も、嬉しそうだ。焼け潰れた片目の痕を軽く掻きつつ、それか、それ以外がそうなのかど うか、ともあれ悦びを感じまくっているのは確かのようだ。 すやすやしてる姫を担いだアニエスと、すっかり忘れられていたデルフを担いだルイズ が合流を果たし、桟橋へ走る。 「フゥゥー……、初めて……人を殺っちまったァ~~♪ でも想像してたより、なんて事 はないわね」 「初めてだと!」デルフとアニエスの声が同時だ。やられ役として息が合ってきたのかも 知れない。 「クソッ、何であの女は来なかったんだ! クソッ」 白い仮面の男が、やはり桟橋へ走りながら呟く。何のためにあの重警備監獄にまで押し 入ったのだか、分からないではないか。あのクソ女、今度会ったら十六分割にしてくれる 。 アルビオン行きの枝へ向かう階段を、ゆっくり走るルイズ。姫とアニエスは船の確保を するべく、先行している。 「なあなあ? 何でゆっくりなのよ?」 「ヌケサクが追って来るのを、待ちながら逃げてるからね」 事情を聞かされておらず、何が何やらのデルフにルイズが答える。 「ん? 誰よそのヌケサクって?」 「そろそろ来るわよ、ほら」 と、もろそうな造りの階段をがすがすと踏みしめながら、男が一人、駆け上がって来る 。隠れてよく見えないが、たぶん憤怒の表情だ。 「ぶほっ。仮面? 何アレ格好いいの?」 『姫様も酷いことするよなあ。誰だか知らないけど』 「さ、始めるわよ! デル公、活躍してもらうわよ!」 「お、おう! 何だか知らないけど任せとけ!」 「貴様! もう一人はどうした! まあどちらにしてもブッ殺す」 意気揚々と自信たっぷりの様子で駆け上がって来る。息は切れ、仮面の下の顔が真っ赤 に熟してるのはご愛嬌だ。 「あら、遅かったわね。お陰でゆっくりしちゃったわよ」 不遜! 不遜なりこの女。余裕綽々である。 「それにね、私たちの世界でそんな言葉、使う必要はないのよ」 「“そんな”って何だ! どれだ! いいからお前は、死ね!」 「あらまた。覚悟が足りてないのねえ」 『覚悟だけは生まれや育ちで得られるものじゃないからなあ』 「それはそうね。ま、この甘ちゃんに期待してもねえ?」 「だだだ黙れえ! 喰らえ! 『ライトニング・クラウド!』」 白仮面の杖から稲妻が迸る。が、残念! 「行くわよデル公!」 「がってんだ!」 放射魔法、まっすぐ向かって来る魔法。これほどデルフと相性のいい魔法はない。手加 減なしの必殺直撃コースなら、絶対に当たるのだから。デルフに。 「な、何い! 吸収しただと!」 ぼふ、とマヌケな音を残して白仮面の姿が掻き消える。吸収の役目を果たしたデルフを その場に落ちるに任せ疾った、ルイズの“打”と“突”が同時にその身体を粉砕したのだ 。 「手ごたえ、なしか」 「遍在ってやつだな、これは」己の博識を披露するデルフ。得意気だ。 「ククク、これは楽しめそうね。次の一手はもう少し面白いのを頼むわよ」 「風石が足りませんや!」 「できるできないが問題じゃない、やるんだよ! いいから出せ!」 凄むアニエスと怯む船長。アンリエッタはお休み中だ。 「何とかしてやるから? な?」媚びるような声の、その腰には構えた銃。 「仕方がありませんな。(畜生)OK、行ける所まで行ってやりますよ!」 ぱたぱたと船に向かって走って来たルイズ達を、船員達がどうにか引き上げ、定刻より かなり早いアルビオン行きの貨物船が、慌しく世界樹から出航した。 甲板を染め始めた曙光が、深更まで飲み続けていたとは思えない健脚を照らす。昨晩の 運動がいささか激し過ぎたようで、日課の寝坊を中断され、やや不機嫌に食い物を求めた 挙句、貨物室のドアをこじ開けて発見した塩漬け肉の塊にかぶりつきながらの登場だ。 まだ細い身体、まだ細い腕、腰。小さな手。感情がおとなしい時だけは高貴な、と見え なくなくもない容貌、好事家であればその姿を映した一幅に大層な値をつけそうだ。右手 に肉、左手に小刀を持っている三白眼のいま、でなければ。 迎え酒だと、またかっぱらって来たワインの樽を傾けるルイズの左手が、何かを見つけ て声を上げる。 『おお、やはり船といえばこれがなくてはな』 「この玩具がどうかしたの?」 『退屈な船旅にはこれが付き物なのだよ、ルイズ。まあ、貴婦人が乗るような豪奢な代物 であれば、プールは当然、劇場やカジノまで揃っていたりするが、庶民が乗れる船の唯一 の娯楽といえばこの輪投げなのだ』 そして、とルイズに向き直り、 『これが君の修行に役立つといったら、どうするどうする? 君ならどうする?』 「これが? ただの遊びじゃないの」 と、投げ輪をつかみ、ぽんぽんと器用にピンに的中させてみせる。 『これが君の空間認知能力を鍛えてくれる』 「なによそのちょうのうりょうりょくって?」 『寒気がするっていうヤツのことか。違うぞルイズ、能力しか合ってない』 「だから何よそれは!」 『君の“魔法”はゼロ距離以外では命中しないだろう? これを矯正する』 「あれが、当たるようになるの?」 『そうだ。それができるようになれば、擬似的にだが『オラオララッシュ』も、『銃撃』 も可能になるぞ』 「『スタープラチナ』と『エンペラー』ね! 近距離と中距離でこれが使えるようになれ ば、わたしの戦闘能力は計り知れないものになるッ!」 『ああ。ま、さらにおぞましい方法もないではないが、それができるかどうかは、まだ不 明だしな』 「何よそれ! せっかくだから教えなさいよ!」 『君が人間をやめる覚悟ができたら話すよ。私はまだ、君にそこまではさせたくない』 「ふん! まあいいわ。じゃあまずその、何とか能力を鍛えてもらおうじゃないの」 話しながらも投げ輪を回収しては投げ、また投げと、輪投げを完成させ続けるルイズ。 左手との会話にかまけていると奇異の目で見られる、それが身に沁みた故の行動である。 『よかろう。その線から三歩下がって、真ん中の五のピンを見てくれ。こいつをどう思う ?』 「すごく……、大きいです……」 『ああスマン、冗談だ。それはともかく、その位置から五を狙うんだ。ただし』 「なに?」 『私が合図をしたら、右・左・後に跳躍して、着地と同時に投げてもらう』 「そ、それは難しそうね」 『跳躍の際に確認したピンの位置を、着地で確かめ、同時に投擲する。これは難しいぞ。 しかも私が合図するまでは、どの方向に跳べばいいか判らない。これが君の空間認知能力 を鍛える』 「ふふん、難しいからできない? それはやってみてから判断して貰いたいわ」 『あ、一つ忘れてた。フル装備だ』 「げ。あれも背負うの?」と、愛剣を見やる。 甲板に刺さって風を感じていたデルフが、視線を感じて嬉しそうにする。 「お? もしかして俺の出番? いいよいいよ! んで、何すんの、俺?」 『重石、だな』 「な、なんだってー。し、失敬な! このデルフリンガー様を漬物石にだと!」 「あんた重いから。だからじゃない?」 「これでも二メイルの大男が持てば、腰に佩けるサイズなんだよ!」 『デルフの長さと、ルイズの背丈がほぼ変わらないからな。ま、鞘なしででも、背負って 貰えてるだけ幸せなんじゃないか?』 「ぐむ。た、確かに鞘さえなければ、俺様の美声を妨げるモノもないことだし……」 「解ったら、ほれ、わたしの鍛錬の礎となりなさい!」 「おほう、感じてしまった。姐さんの尻肉は美しく薄い」 「うるさいうるさい、うるさい! 女の魅力は尻じゃあないのよ!」 『ルイズ、それ以上は墓穴になるぞ』 「気にするな姐さん! 俺はむしろ小さいのが大好きだぜ!」 ああ爆発、そして爆発。この珍道中は続く。爆音と悲鳴と共に……
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グイード・ミスタ登場 その① グイード・ミスタ登場 その② グイード・ミスタ登場 その③ トリステインで朝食を その① トリステインで朝食を その② トリステインで朝食を その③・四大魔法(魔法のルールは不吉) 貴族らしく死ね その① 貴族らしく死ね その② 姫殿下の000(ダブルオーゼロ) 姫殿下からの第一指令 土くれのフーケを捕縛せよ その① 姫殿下からの第一指令 土くれのフーケを捕縛せよ その②
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ダークマター族の王。φ宇宙の全てを喰らいつくしダークマターの理想郷を創り出すことを本能に動く。 自分の体の中からダークマターを生み出すことができる。また、自分の体に吸収したものを体内で再現し、能力を身につける力を持つ。ゼロが様々な種を取り込むたびにゼロは進化を遂げる。 また、倒されてもしばらくしたら体を再構築して復活を遂げる。完全に消滅させるためには神々の力が必要。 生き物の負の感情を吸収してエネルギーとする。そのため心の神ディニムを重要視している。 生物への憑依能力がない。そのため自分の体からレプリカを生み出すか、ダークマターを使役して憑依させる。
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第一話『召喚の世界』 第一話『召喚の世界』-2 第二話『甘ったれた世界』 第三話『格差の世界』 第四話『地獄の世界』 第五話『生きててよかったねマリコルヌ、の世界』 第六話「トリステインのばら」 第七話『ギーシュにキッス』 第八話『男の世界』 第九話『幸運の剣』 第十話『タバサVSリンゴォ』 第十一話『ルイズVSキュルケ』 第十二話『夢でもし会えたら』 第十三話『失われた世界』 第十四話『嘘と裏切りの月夜』 第十五話『土くれを撃て』 第十六話『LAST WORLD その①』 第十七話『LAST WORLD その②』
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「何考えてんのよ、あいつは!」 ルイズが廊下を走っている。 「私が…ご主人様が心配してあげてるっていうのに…」 いくら腕力が強かろうと、ギーシュの操るゴーレムの前ではひとたまりも無いだろう。 「何のために剣を買ったと思ってるのよ!」 剣を使えば勝てないまでも、一矢報いることが出来るかもしれない。 そうしたらあの使い魔も、臆病者と呼ばれる心配もなくなり、素直に謝るだろう。 「ボロ剣!あんたの出番よ!!」 勢いよく自分の部屋の扉を開けて、デルフリンガーが置いてある場所に向かって叫ぶ。 「あ~ん?出番…いいよ、相棒には俺なんていらねーんだ。もう実家に帰る!」 しかしデルフリンガーはすっかり駄目になっていた。 「実家ってどこよ!?」 「武器屋。だいたい俺が必要な相手ってなんだ?ドラゴンの大群でも湧いたか?」 「なに大口叩いてんのよ!貴族よ、貴族!ドットだけど平民が素手で、 あんたがいても無理だと思うけど…とにかく勝てるわけ無いでしょ!」 「じゃ俺帰るわ」 「どうやってよ!?そうじゃなくて!あーもうこのボロ剣、とにかく行くわよ!」 デルフリンガーを掴んで走り出す。 「あいつ、私が行く前にやられたら承知しないんだから…」 「今日はどんな風にミス・ロングビルとスキンシップをとろうかのう…」 学院長室にて、オールド・オスマンはこれからやってくる秘書に、 いかにセクハラするかを考えていた。老いて益々盛んなスケベジジイである。 「やはりここはオーソドックスにモートソグニルに覗かせるべきか、 ボケたフリをして尻をさわるべきか、悩むのう…そうじゃ! 胸を揉まねば治らない発作というのはどうか!? しかし流石に胸はまずいかのう、本気で殺されるかもしれん…尻でさえあれじゃから」 今朝、尻を触ったら『こいつはメチャ許せんよなあああああ!』とバックブリーカーを 決められた時の事を思い出していると、ノックの音が聞こえた。 「む、誰じゃ?」 「オールド・オスマン、私です!」 「ふむ、入ってきたまえ」 立てかけてあった杖を振って扉を開けると、秘書のミス・ロングビルがそこにいた。 「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒達がいます! 何人かの教師が止めようとしましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようで…」 「なんじゃ、それぐらいの事で騒々しい…で、その暇な貴族は誰と誰なんじゃ?」 「一人は貴族なのですが…その、もう一人はイクロー君… いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民です」 「なんと、あの少年か!相手の貴族は?」 「ギーシュ・ド・グラモンです。教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の 使用許可を求めおりますが…」 「ふむ…」 鬚をいじりながらしばし黙孝した後、オスマン氏は口を開いた。 「たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使うわけにはいかん、放っておきなさい」 「はい…」 不満そうなミス・ロングビルに、オスマン氏は続ける。 「…と、言いたいところじゃが。ミス・ロングビル、君が止めてきなさい。 なに、少々手荒な事をしてもかまわん。ワシが許可する」 「は、はい!」 その言葉を受け、急いで部屋を出ようとすると、一人の教師がドアの外に立っていた。 「おや、これはミス・ロングビル。どうかしたのですか?」 「すいません、急いでいるもので…」 入れ替わりで、太陽拳ができそうな教師が部屋に入ってくる。 「何かあったのですか?」 「いや、グラモンの馬鹿息子が平民と決闘をするとかいう話でな。 ミス・ロングビルに止めに言ってもらったのじゃよ、ミスタ…コルレル?」 「コルベールです!しかし、彼女に止められるなら、他の教師達が止めているのでは?」 チッチッチッ、と指を左右に振ってオスマン氏が答える。 「相手の平民なんじゃがな…ありゃミス・ロングビル、たぶん惚れとるな」 「なななな何ですと!?」 実はコルベールは影ながらミス・ロングビルを狙っていたのだ。 「ま、実際は惚れとるとまでいかんじゃろうが、きっかけがあればすぐじゃ」 うんうんと一人で納得するオスマン氏。 「そこでじゃ!そのきっかけを与えてやったというわけじゃ」 「というと?」 「察しが悪いのう、ミスタ・ブリトヴァ」 「コルベールです…」 「良いか?はっきり言ってただの平民では、すぐにやられてしまうじゃろう… ミス・ロングビルが駆けつけるころには、少年はボロボロになっておる。 彼女は間に合わなかった事を悔やんで、せめて少年を看病しようとする 保健室で若い男女が二人きり…これはもう何か起こることは間違いない!」 「そ、そうでしょうか?」 「わかっとらんのう…一人はやりたい盛りの年頃、一人は婚期を逃した女ざかり。 これで何かおこらんはずがあるまい!というかワシなら無理にでもおこすね! 少年は真面目そうじゃったから、責任を取ってミス・ロングビルとゴールイン! ミス・ロングビルはきっかけを作ったワシに感謝!きっと尻を触っても許してくれる! あるいは胸もOKになるかもしれん!いや、なるに違いない!」 「おい、ジジイ」 そのころミス・ロングビルこと、土くれのフーケは 「ふふふ、ボロボロになった坊やを看病することによって、アタシへの高感度はアップ! 東方の情報や、ラ・ヴァリエール家の情報をゲット!夢がひろがるねぇ!」 あんまりオールド・オスマンと変わらない事を考えていた。 「ところで何しに来たんじゃ、ミスタ・ガブル?」 「コルベールです!ってそうでした、大変な事がわかりました!」 先程の冷めた態度とはうってかわって、コルベールが興奮した様子で告げる! 「あのミス・ヴァリエールの呼び出した少年なんですが、 変わったルーンだったので調べてみたら…これを見てください!」 コルベールが机の上に、ルーン文字のスケッチと、古びた本を置く。 「『実践!ブリミル式毛根復活法 私はこれでフサフサに!』もう手遅れじゃと思うがのう…」 「それは部屋に置いてあるはず!?」 「嘘だよお~~ん!冗談じゃ、冗談ッ! しっかしそんな本、本当にあるんじゃな。適当に言ってみただけなんじゃが」 キレそうになるのを必死で抑えて、コルベールが本を開けて話を続けようとする。 「…見てください、彼のルーンは始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に 刻まれていた物とまったく同じだったのです! つまりあの少年は…伝説の『ガンダールヴ』になったんですよ!」 机を叩いて、オスマン氏に詰め寄る。 「落ち着かんかい、ミスタ・ラスヴェート。あと顔が近い。 ルーンが同じじゃからといって、そうと決まったわけではないじゃろう」 「コルベールです!まあ、それはそうですが…」 「しかし、それはちょうど良いかもしれんな」 「は?」 オスマン氏が壁に掛かった大きな鏡に向かって杖を振ると、ヴェストリ広場の様子が 映し出された。コルベールが、人だかりの中心にいる2人の少年の片方に目を奪われる。 「彼は!?」 「そうじゃ、先程の話の平民じゃよ」 はっ、となってオスマン氏を見るコルベール。 「もし少年が『ガンダールヴ』なら、これではっきりするはずじゃ…」 「諸君!決闘だ!」 ヴェストリ広場の中心でギーシュが薔薇の造花を掲げた後、育郎にそれを向けた。 「とりあえず、逃げずに来た事は、褒めてやろうじゃないか」 隣ではモンモランシーが『あ~~~ん…頼もしいわ!アタシのブルりん!』という目で ギーシュを見つめている。 「モンモランシー、この勝利を君に捧げよう」 薔薇を口にくわえ、優雅に礼をするギーシュをさらに熱っぽい目で見るモンモランシー。 ギーシュは、思わずこの状況を作り出した育郎に感謝したくなってくるが、 もちろんそんな態度はおくびにも出さない。 「………」 対する育郎は、ギーシュとは対照的にその心は沈んでいる。 彼自身、本来争を好まない性格という事もあるのだが、ここ数日で魔法にいくらか 触れてきたとはいえ、さすがに戦いに使う魔法など見たことがないのだ。 危険な状態になれば、取り返しがつかなくなるかもしれない。 しかしそれでも、震えるシエスタの姿を、そして自分の事を『ゼロ』と言った時の ルイズの悲しそうな顔を思い出すと、決闘をやめる気にはなれなかった。 「では始めようか…ワルキューレ!!」 ギーシュが叫んで薔薇を振ると、花びらが一枚宙に舞い、それが全身金属でできた、 戦乙女の姿に変化した。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ! 従って青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ。行け!僕の美しき戦乙女よ!」 ワルキューレが育郎に向かって走り出し、その青銅の拳を突き出す。 しかしその拳の先には育郎はいない、軽く体を捻ってかわしている。 ワルキューレは次々と拳を繰り出すが、その全てが空を切った。 自分に向かって放たれた銃弾すら知覚できる今の育郎にとって、ワルキューレの拳は 止まっているに等しい。 「なかなかやるじゃないか、あの平民」 「ギーシュが遊んでるだけだろ。おいギーシュ、そろそろ本気を出せよ!」 「はっはっはっ、まかせたまえ!」 周りの生徒の声に答え、ギーシュは薔薇を振ってさらに3体のワルキューレを生み出し、 育郎を襲わせる。 ひょっとしてこれはまずいんじゃないか? ギーシュは少しだけ焦っていた。 4体に増えてもワルキューレ攻撃はさっぱり当たらないのだ。 モンモランシーの方を見ると『何やってんの?』という顔でこちらを見ている。 勿論自分が負けるわけは無いのだが、そもそもモンモランシーは野蛮な事は 嫌いなのである、長々と戦いを見せても喜ばれる事は無い。 逆に考えるんだ、避けられると言うのなら… 「…避けられない攻撃をすれば良い!来いワルキューレ!!」 育郎から離れ、ギーシュの傍に移動したワルキューレ達が横一列に並んでいく。 「突撃だ!!」 その声と共に4体のワルキューレ全てが、一斉に育郎に向かって突進する。 これなら例え避けようとしても、全てのワルキューレを避けた方向に動かせば、 完全に避けられる事は無いだろう。 対して育郎は、なんと突進するワルキューレに向かって走り出した。 「ふっ、恐怖のあまりおかしく…ってワルキューレを踏み台にしたぁ!?」 確かに横方向には対応できただろうが、縦の方向は想定していなかった。 もっとも、突進するワルキューレに向かって飛び上がり、その頭を踏み台にする という事を、想像出来る物はこの場にはいなかっただろうが。 一呼吸の後、ギーシュの後ろに育郎が降り立つ。 そしてその瞬間、ギーシュの背筋に冷たいものが走った。 「うわわわわわ!!」 ギーシュ・ド・グラモンの中に眠る軍人の血が、あるいは生物の純粋な本能が、 自分の後ろのいる生き物が、尋常な代物で無いと激しく警告する。 「わ、ワルキューレ!」 振り向きながら薔薇を振り、さらに2体のワルキューレを、今度は素手ではなく、 槍を持たせた状態で練成し、攻撃の指令を与える。 しかし、その槍は受け止められた。 並みの人間よりは強い力を持つはずのワルキューレが、特別に体格がいいわけでもない 育郎に、それぞれ片手で攻撃を止められている様は異様であった。 この瞬間、彼は自分が相手にしているのは、人間であるという認識は吹き飛んだ。 育郎はこのまま、手に持った槍を投げ飛ばし、ギーシュの杖を奪えば終わりと考えた。 この数日の出来事で、魔法を使うのには杖が必要だという事はわかっている。 これで終わり、そう安堵していた。 しかしそれは油断だった。 ギーシュにとっての幸運は、それほど強力なメイジではないという事だった。 故に育郎はその力を使う必要は無いと判断した。 ギーシュにとって不幸は、それでも彼はメイジであり、簡単に人を殺せる力を 持っているという事だった。 「ぐぅ…ッ!?」 育郎の腹部から槍が突き出ていた。 彼の背後にはその槍の持ち主、ギーシュが作り出せる最後のワルキューレが佇んでいる。 育郎がギーシュの杖、薔薇を奪おうと手を伸ばすと、ギーシュはその手を払うように 杖を振った。もっともそれは、育郎にはそう見えたというだけであって、 実はワルキューレを作り出す為の行動だったのだ。 それが分からなかった育郎は、背後に現れたワルキューレに気付かず、その攻撃を まともに受ける事となった。 「ああ……」 呆然とするギーシュ。 いくら相手が平民でも、ここまでする気など無かった。 しかしあの瞬間、己の体を駆けずり回った恐怖が、彼を過剰な行動に移らせた。 「ギーシュ!後ろから攻撃するなんて卑怯だぞ!」 「平民相手に情けないぞ!」 周りの声でなんとか冷静になっていくギーシュ。 モンモランシーを見ると、口を押さえて真っ青になっている。 「そんな!?」 ルイズが広場にたどり着き、人ごみを掻き分けて見た物は、自身の使い魔が 槍に貫かれている姿だった。 こんな事なら剣なんてとりにいかなければ良かった 何としてでもあの時止めるべきだったのだ これは自分のせいなんだ… 涙で視界がぼやけてくる。 やっぱり自分はゼロなんだ 使い魔も止められない、おちこぼれのメイジ あの傷じゃ死んでしまうかもしれない 自分がゼロだからあの使い魔、イクローが死んでしまう… 「泣くな娘っ子、相棒なら大丈夫だ」 手の中のデルフリンガーが、ルイズに声をかける。 「何が…何が大丈夫なのよ…あいつが、イクローが…私がゼロのせいで…」 「しゃーねーな……相棒を見てみな」 「………え?」 『変化』がおきていた 「なななななな何だこれは!?」 ギーシュの目の前で信じられない光景が展開されていた。 育郎を貫いている槍が、ひとりでに押し出されたのだ。 『「寄生虫バオー」の麻酔作用開始! 育郎の肉体を槍が貫いた瞬間、体内の「寄生虫バオー」は育郎の精神を麻酔し、 彼の肉体を完全に支配した!』 渇いた音を立てて槍が地面に落ち、その傷が見る見るうちに塞がっていく。 『「寄生虫バオー」の分泌液は血管をつたって細胞組織を変化させ……… 皮膚を特殊なプロテクターに変える!』 育郎の肌の色が変わっていき、顔にひび割れが入り、髪が伸びていく。 蒼い、その肉体は人間にはありえない質感と色をしていた。 『筋肉・骨格・腱に強力なパワーをあたえるッ!』 そこに立っていたのは人間ではなかった 金色の目と蒼い肌、蒼い髪を持つ異形が唸り声を上げたッ! こ れ が ッ ! こ れ が ッ !! バルバルバルバルバル!!! こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ ! そいつに触れることは死を意味するッ! アームド・フェノメノン 武 装 現 象 ッ ! ウォォォォォォォォォオオオオオオオム!!!!
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前ページ次ページゼロの白猫 はっきりしない頭のまま瞼を開ける。ルイズの瞳に映ったのは自室の天井と、夢の中の幼女を止めようと伸ばした自分の手だった。 「……夢、だったわね」 そう、でルイズが見ていた物は正しく夢である。だが問題はそこではない。あの夢はルイズが作った幻か、それともあの幼女が作りだした物だったのか。 「あの子……!」 がばっと音を立ててベッドから跳ね起きる。部屋を見渡すが、昨日召喚したはずの白猫は見当らない。 その事実にルイズの肝が冷える。まさかあの雪原だけでなく召喚に成功したことまで夢だったのではないか、と。自分は未だゼロのルイズで、また周囲のメイジから嘲笑われる日々が続くのではないか、と。 「嘘よ! 絶対、絶対夢じゃないに決まってるわ!」 目の端に何かを滲ませる自分の弱気を叱咤するため、わざと大きな声を上げる。ベッドから飛び降り、物陰から部屋の隅までくまなく調べ続け、最後にベッドの下を覗きこんでようやく捜索は終わった。 「……い、たぁ~~~」 床に這い蹲った姿勢のまま安堵の呟きが漏れる。 レンはベッドの下でくるんと丸まって眠っていた。その様はまるで雪合戦で大きめに丸めた雪玉のようである。雪玉との違いは溶けて無くなったりしない所だろうか。 レンの姿を見て安心したルイズだが、次にご主人様が起きてるのに何で起きないんだこいつは、そもそも主人に要らない心配をさせて涙まで滲ませるなんて何様のつもりだ、いや泣いてないけど! と、ふつふつと怒りの感情が湧いてくる。 「こらレン! 起きなさい! ご主人様が起きてるんだからとっとと起きる!」 怒声を上げながら――ルイズは昨晩見たものが夢だろうともうこの猫はレンと呼ぶことに決めた――ベッド下の毛玉を引きずり出す。仔猫と人間では体格差は覆しようが無いほど開いており、成す術もなくレンはルイズの前に引っ立てられた。 「……」 ルイズの呼びかけにもレンは片目を開けただけで鳴き声もあげない。しかもその目つきたるや、『何よせっかく寝てたのに全く騒がしいマスターね』とでも言いたげな胡乱な瞳だった。 「だらしないわよ。使い魔たるもの主人より先に起きて主人を起こすのが基本なんだから。まあその姿じゃ着替えとかの身の回りの世話は無理だろうから大目に見てあげる」 正に貴族。強引グマイウェイ! そんな主人をどう思ったのか、レンは主人の腕から逃げ出して飛び降りる。 「あ、こら逃げるな!」 制止の声にも静止せず、とことこ床を歩くレン。何処へ行くのかと思えば、向かった先は再びベッドの下である。 びきり、とルイズのこめかみに怒りの四つ角が浮いた。 「だ・か・ら! おきなさぁああああい!」 朝早いトリステインにルイズの怒声が響きわたる。昨日の眠りが浅かったためか、ルイズの起床した時間はいつもより早い。そんな朝焼けが始まろうかという時間に構わず叫ぶルイズ。いつもの低血圧は何処へいったのだろうか。 そんな大声で喚き散らすマスターにようやく覚醒したのか、入った時と同じ速度でベッド下から出てくるレン。ルイズの足下でぴしっと構える。いわゆるスフィンクスの体勢である。ハルゲギニアにスフィンクスの像は無いだろうが。 レンの態度を見てようやく気を落ち着かせることができたのか、先程から荒げていた呼吸を整え始めるルイズ。レンはそんな自分の主人を紅くて丸い瞳で見つめている。じっと見上げてくる自分のレンを見ながら、ルイズはこの使い魔に問わねばならないことがあったと思い出す。 「ねえレン。昨日見た夢って……現実なの?」 夢を現実だったのかと聞く。文章にすると中々おかしな話である。胡蝶の夢の話を思い起こさせるような主人の問いかけに、レンはただ首を傾げる。 「昨日、夢であんたが月が一つしかない雪原で耳が長いエルフみたいな女の子になって自分は夢魔のレンだとか言ってきたのよ。アレはあんたが見せた物だったの? ねえ?」 ルイズの級友達が聞いたら爆笑しそうな台詞である。だがルイズにとっては紛れもない真実。そんな質問をぶつけられたレンは再度逆方向に首を傾げる。 更に詰問を続けようとしたルイズだが、ふと気づいた。こちらの質問の度に首を傾げる仕草をした、と言うことは……まさかこの猫、今も自分の言うことを理解している? 「……レン、あんた、私の言うこと分かってとぼけてない?」 ルイズが顔をひきつらせてそう言うと、レンはふいっと横を向いて視線を逸らした。 ギルティ。有罪確定である。ルイズの怒りの四つ角は四つに増えた。ルイズはこみ上げる激情のままに罵声を張り上げようとした。が。 どバン!! 「うるっさいわよルイズ!」 ノックもせずドアを蹴破るような勢いで入ってきた仇敵に、躾はいったん止めざるを得なかった。 「ツェルプストー! 中の人の返事も待たずに部屋に入ってくるなんてどういうつもり!」 「どういうつもりはこっちの台詞よ! 朝っぱらからごそごそぎゃあぎゃあ喧しいの! そんなに人の安眠を妨げて楽しいわけ!? 寝不足はお肌の天敵なのよ!」 いきなり入ってきた無礼を正そうとするルイズに負けじとがなり立てる寝間着姿の長身の褐色肌。ルイズのライバル、『微熱』のキュルケ嬢である。 そんなキュルケの寝間着姿はワンピース型の寝具、ネグリジェ。昨晩は一人だったのか異性に見せるための下着ではないようだが、ふわふわした生地とあしらわれているレースが安物ではないことを証明している。 うむ、なんだまあ、キュルケのけしからん程盛り上がっている胸部とかRを描いて自己主張する臀部とかむっちりと肉が付いている太腿とかその他諸々と相まって、その、十分工口い。 そんな扇情的な格好も、寝起きで顔も洗っておらず、まだ手入れがされていないぼさぼさの長髪では魅力半減だが。 「私は使い魔の躾をしてただけよ! あんたの安眠なんて知ったこっちゃ無いわ! そんな寝具のままで出歩くような恥知らずのことなんかね!」 「出歩かせてんのはそっちでしょうがゼロのルイズ! 後自分の体が貧相だからって嫉妬は見苦しいわよ凹凸ゼロのルイズ!」 「あんですってえええええええええ!?」 言い合いは留まることを知らず、むしろヒートアップの様相を見せている。そんなマスターと侵入者の漫才のようにも見えるやりとりをレンはじっと見つめているのだった。 「第一躾っていっても、怒鳴りつけるだけじゃ躾なんていえないわよ? 主人たるもの、自分の事から気にかけなくちゃ。まずは自分の事から始めなさいな!」 「ネグリジェ姿で出歩いてるあんたに言われたくないわ! 私の何処が躾られてないってのよ!?」 「自分の感情の沸点が低すぎること! 時間も何も関係なく騒ぐところ! しかも昨日から着替えてないでしょ!? 服もマントもしわくちゃじゃない! まだそこにいる猫の方が身繕いをきちんとしてるわよ!!」 びし、とレンを指さして吠えるキュルケ。痛いところを指摘されて言葉に詰まるルイズ。 確かに昨日は寝間着に着替えることもなく、ベッドに倒れてそのまま眠ってしまったのだ。言われてみると自分の服は所々皺が寄ってしまっている。貴族の証であるマントも同様だ。 正論で説き伏せられそうになるルイズだが、この程度で自らの非を認めるルイズではない。持ち前の負けん気を発揮してキュルケに反論する。逆ギレとも言う。 「こ、これは身繕いしないとどうなるのかと言うことを教えているのよ! 自分の体を張ってまで使い魔を教育するなんて私ったら主人の鏡ね!」 「ルイズ、その言い分じゃ貴方が着替えもせずに寝たことも朝からぎゃあぎゃあ騒いでたことも言い訳できないわよ?」 墓穴である。キュルケはもう怒りも冷めたのかむしろ呆れたような眼差しをルイズに向けていた。熱しやすく冷めやすいのが彼女の性分なのだ。 「せっかく早起きしたならお風呂にでも入ってきたら? 確か昨日のお風呂入りに来なかったでしょ、あなた」 その言葉にルイズの顔が炎のように赤く、熱くなる。ツェルプストーなどに自分の身だしなみを窘められるなんて! そんな主達の声をよそに、レンはせっせと自分の舌で毛繕いをしていた。猫は綺麗好きなのである。 普段なら美徳である猫の習性だが、このタイミングで行われるのはルイズにとって非常にまずい。毛繕いをしているレンを見てニヤリとキュルケが笑みを浮かべる。 「ホラ、使い魔も自分でしっかり綺麗にしてるじゃない。主の成すべき事を示してくれるなんてその子、使い魔の鏡ね」 「それ以上愚弄するなら先祖代々の恨みも含めてここで晴らしてあげるわよツェルプストー……!!」 「あら怖い。まあゼロのルイズができる事なんてたかが知れてるでしょうけど。ま、とにかくさっさと綺麗になってきなさいな。静かにねー」 入ってきた時とは打って変わって颯爽と去ってゆくキュルケであった。逆にルイズの機嫌は最悪である。 「あああぁあ~~~ムカつくぅぅぅ! 何なのよキュルケの奴人の部屋にいきなり入ってきて言いたい放題~~~!!」 この場合悪いのは隣に聞こえる程騒がしかったルイズなのだがそんな理屈はルイズには通じない。『ツェルプストーの人間に論破された』ということは『ヴァリエール家のメイジであるルイズ』には耐え難い屈辱なのだ。 だがトリステイン魔法学院寮で、隣の部屋に聞こえる程騒がしかったというのは、それはそれはすごい大声であるはずである。 何故このような話になるか? それは『ルイズの部屋』と『キュルケの部屋』が『隣同士』であることから考えられる。 ルイズはよく言えば潔癖、悪く言えばお子様な思考回路を有している。そしてキュルケは恋多き人物であり、頻繁に異性を部屋に連れ込んでいる。それなのにルイズは毎夜『熟睡できている』のである。以上の事から作者が連想したことを察してほしい。 閑話休題。 地団太を踏むのに疲れたのか、ルイズがからかわれる要因となったレンをギロリと睨むが、そんなものレンには何処吹く風。小首を傾げて主人であるルイズを見つめている。 「レン! お風呂に行くから付いてきなさい!」 朝風呂には入ることにしたらしい。レンに命令し、鼻息も荒く入浴の準備を済ませるルイズ。未だ不機嫌な彼女の後をレンはトコトコついて行く。 浴場に行く道すがら、レンが自分の後ろにいることをルイズは何度も確認する。確認する度に、自分は召喚に成功した、魔法を成功させたのだと言うことを実感してニヤニヤと機嫌良さげに頬がゆるんでだらしない顔になる。 昨夜、夢の中で脅された恐怖など吹っ飛んでしまっていた。このような顔、家族や級友にはとても見せられない。特に家族に目撃されたなら折檻ものである。 そして浴場へと一人と一匹は辿り着いた。誰もいない着替え場で淡々とルイズは衣服を脱ぐ。その場にはルイズとレンしかいないためか、恥じらう様子はない。一糸纏わぬ姿になり、年不相応なあまり起伏のない肢体が晒される。 制服を頭から脱ぐと、長くてふわふわした桃色がかったブロンドが踊る。服の下から表れたのは矮躯とも言える小さな肢体だが、これはキュルケとは別の意味で暴力的な肢体である。 細い。細いのだ。何処がと言うわけではなく、首、腕、指、腿、ふくらはぎ等、体のパーツ全てが。 あばら骨が透けて見えそうな程薄い肉付きが一層それを強調している。腰回りなど成人男性の両手で覆えてしまいそうではないか。これは僅かな贅肉に一喜一憂する数多の女性からすれば羨望の的であろう。 繊細な芸術品のような儚げな肢体と、十人中九人が美人と答えそうな容貌――ツリ目嫌い等がこの一人に入る――を持ちながらも、本人がそれを正しく理解していないのが悲しいことだ。 ルイズの柳のように細い腕が浴場への扉を開け、浴室へと向かうのだが、レンは動かずじっとしている。大抵の猫は濡れることを嫌うのである。レンもそうなのだろう、とルイズは結論づけた。 「じゃあレン、ここでおとなしくしてるのよ」 例えレンが入りたがったとしても使い魔を貴族が使う浴場へ連れ込むわけには行かない。理由としては、使い魔はメイジのパートナーであるが、一緒の湯船に浸かるのはまずい生物が少なくないからだ。 粘液に覆われた爬虫類、そもそも湯船に入る事のできない巨体など実に様々。猫のレンは抜け毛が大変なタイプである。 それを分かっていながらルイズがレンを連れてきたのは、この白くてもふもふした物体とできる限り一緒にいたかったからに他ならない。それにしてもこのルイズ、主人バカである。 自分の使い魔に待機を言い渡し、ぴしゃりとルイズは扉を閉める。 ざんねん! さくしゃのにょたいかんさつはここでおわってしまった! (……浴場へ行って石鹸の補充。それからお洗濯して干して。マルトーさんのところでお手伝いしたらご飯食べて……) 廊下を歩きながらこれから自分の行う仕事の予定を確認しているのは、このトリステイン魔法学院にて奉公に来ているメイド。名をシエスタと言う。 メイドなので無論のこと貴族ではない。貴族のようなきらきらしい美しさはないが、人を落ち着かせるような素朴さを持っている。 落ち着くと言っても暗いと言うわけではない。自己主張の激しすぎない、それでいて周囲へ自己を認識させるたおやかさも持ち合わせている。 黒い髪は肩上で切り揃えられ、うっすらとそばかすのある顔の両側でちらちら揺れている。瞳も髪と同じく黒曜石のような漆黒で、欧州と言うより東アジアの人間を思い起こさせる容姿だった。 そんな彼女が行く先は貴族の浴場である。無論彼女が入浴するわけではない。先程のシエスタの回想にあるとおり、石鹸の補充に行くところなのである。 普段は利用者の少ない昼過ぎ等に行うことだが、昨夜のある貴族から『石鹸が切れそうだったわ。新しいの入れといて』との指示からこの時間に行動しているのである。希ではあるが、朝に入浴する貴族もいるからだ。できる限り叱責の可能性は減らしておきたい。 そしてシエスタは浴場に到着する。脱衣場に入る前にノックをして誰も居ないことを確認するとドアを開ける。浴場へと続くガラス戸へ目を向けると、シエスタは自分の間の悪さを呪った。 誰か居る。こんな早朝から風呂に入る貴族が。 お風呂に入っている貴族の扱いは非常にデリケートでなければならない。 トリステインの貴族は羞恥心や貞操観念が高いので、同性や平民という垣根があっても素肌を見られることを嫌う女性は珍しくない。ましてや迂闊にコンプレックスを刺激するような発言でもあればどうなることか。 貞操観念が強い風習がありながらあの短いスカートはどうなんだ、と言うツッコミは入れないでほしい。たぶん学院長の趣味なんだよ。 できれば誰も居ないでほしかったのに、と思うが仕方ない。できる限り中の人間を刺激しないようにさっさと終わらせるだけだ。シエスタは意を決して浴場への戸をノックする。 「誰?」 「ご入浴中に失礼いたします、石鹸の替えを持ってきたので入ってもよろしいでしょうか?」 「分かったわ、入りなさい」 ノックの答えに従って「それでは失礼いたします」とシエスタは戸を開ける。湿度の高い空気がむわっと入ってくるが、そんな空気よりもシエスタにとって一番の懸念事項は入浴中の貴族のことだった。 その貴族は香り付けのフルーツが浮いた湯船に浸かっていた。湯船に浸からぬよう桃色がかったブロンドは結い上げられており、普段は見れないであろううなじは濃い桜色に染まっていた。惜しむらくはルイズの基礎的な色気がまだ少ないことだろうか。 できる限り刺激しないようシエスタはさっさと仕事を進める。大したことではない。少なくなった石鹸を新しい石鹸に取り替えるだけだ。すぐに仕事は終わる。 「それでは、失礼いたしm「ねえ」 退室の言葉を述べようとしたところで呼びかけられた。シエスタの心臓が凍り付く。私は何かマズいことをやってしまったのか、それとも何か新しい用事を言いつけられるだけ――? 「な、何かご用でしょうか」 「脱衣所に白い猫は居た?」 意味が良く分からない問いを貴族は投げかけてきた。戸惑いながらもシエスタは先程の脱衣所の記憶を探る。 貴族が居ることに気づいて浴場の方に気を取られていたが、確か自分の見た限りでは―― 「いいえ、猫なんておりませんでしたが」 「なんですってええええええええ!?」 「ぴいっ!?」 有らん限りの怒声を張り上げてブロンドの少女が立ち上がる。全裸で。 悲鳴を上げながら恐怖に身を竦めたシエスタには、 まさか貴族に「はしたないですよ」と言うこともできず、心の中で残される家族にただ謝っていた。 (あのバカ使い魔! 大人しく待ってなさいって言ったのに……!) ルイズは湯船から飛び出すと、濡れた体を隠そうともせずにすぐ脱衣所へ突入する。 ぎらぎらした目で辺りを見回すが、あの白猫は見つからない。 「こらレン! 何処行ったのよ! 待ってなさいって言ったんだから待ってなさいよ! 返事しなさい!」 怒声を張り上げながらルイズは片っ端から脱衣所内を探し始める。部屋の隅っこを調べ、数ある洗濯籠を調べ続け、白い洗い物が入っている籠を覗きこんだ時、 「見つけたっ!!」 ようやくルイズは勝ち鬨をあげる。洗い物に見えたのはレン自身だった。全身真っ白なのでタオルか何かだと見間違えていたのである。籠の中でぐるりと丸まり、前足、後足、尻尾を器用に収納して目を閉じ、やすやすやと睡魔に意識を委ねていたのだった。 「レェェェェン……あんた二度も主の手を煩わせるなんて……これは徹底的な躾が必要なようねえ……!」 未だに籠の底で毛玉になっている相手に凄むルイズ。今の彼女の背景には『ゴゴゴゴゴ』という文字が似合いそうだった。 「あ、あのう、ミス」 「なによ!?」 「お体をお拭きになられないと、冷えてしまいますよ……?」 おそるおそる言うメイドの声に少しだけ頭が冷える。間違っても目の前のメイドが某魔王少女と言うわけではない。 指摘されるまで気にしなかったが、自分は今全裸だ。スッパだ。丸見えだ。生まれたままの姿だ。 しかも湯船からそのまま飛び出たので全身びしょびしょだ。濡れ鼠だ。水も滴るいい女だ。 ちなみにびしょびしょというのは美少女二人が濡れていることを略してびしょびしょという語源になったのda、ってタイガーが言ってた。 確かに早く体は拭いたほうがいい。メイドが差し出しているタオルをひったくるように受け取ると、ルイズはごしごしと乱暴に自分の体を拭き始めた。 「あんた」 「はいい!」 「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。あんたの名前は?」 「し、シエスタと申します」 「そう、ならシエスタ。そこに私の着替えがあるから着せて」 「かしこまりましたぁ!」 まだ先程のルイズの怒号の恐れが消えていないのか、堅さを残したまま、しかし素早く行動するシエスタ。妙な失敗をしないよう、細心の注意を払って貴族の着替えを行う。そしてその間もレンは籠から出てくることはなく、ルイズもレンから目を逸らすことはなかった。 最初ルイズはこの白猫にどんな折檻をしようか考えていた。しかしこの猫が眠っている姿を見ている内に少しずつ怒りも冷めてきた。 そう、確かにこの使い魔は大人しくここで待っていたではないか。未だにぐーすか寝ていることは許し難いが、そこはこれから躾ることだ。怒ることと躾は違う。むやみに怒鳴り散らすだけでは躾とは言えない。 それにこの使い魔の食事も考えなければ。主人は使い魔の食事に責任を持たねばならないのである。 (それに……昨日の夢) あの夢の中で自分は『レンを養う』と契約したのだ。ならば食料の確保をせねばなるまい。 そこまで考えをまとめている内に着替えは終わった。制服姿になったルイズは着替えを手伝わせたメイドに向き直る。 「シエスタ」 「ハイッ」 「そこの私の服、洗濯しておいて。そ・れ・と!」 気合い一閃! 籠からレンを掴みあげる。両脇を掴みあげられたレンはだらーんと縦に延び、じたばた手足を動かしている。 「この猫、私の使い魔でレンっていう名前なんだけど」 「わあ! 可愛らしい猫さんですね」 「でしょう? この子用の食事を用意してほしいのよ」 「かしこまりました」 こういう貴族の頼みは珍しくない。使い魔と一口に言っても実に様々な種類が居るのは前述の通り。 だが餌に関しては実は大きく二種類に分けることができる。使い魔が勝手に調達するタイプと、主人が用意せねばならないタイプだ。 レンは微妙な判定だが、元飼い猫と言う経歴から食事の供給が必要だろうとルイズは判断した。まあ元飼い猫でなくともルイズが食事を用意させた可能性は高い。 「肉食の使い魔用のお肉でよろしいでしょうか?」 「ええ、それでお願い」 そんな二人の遣り取りが成される中、レンは相変わらず手足をじたばたさせていた。先程よりジト目になっているのは不安定な姿勢で固定されている所為だろうか。 薄目の子猫をシエスタは微笑ましく見つめながらもさっさとルイズの洗濯物を集める。 「それでは失礼いたします。レンちゃんの料理も用意しておきますので」 「ええ」 脱衣所の入り口で二人と一匹は別れた。シエスタは水場へ洗濯に、ルイズは食堂へ朝食を採りに行きました。 すたすたと食堂へと向かう道中、ルイズはずっとレンを抱いたままである。レンも諦めたのかルイズの腕の中でじっとしている。 もしかしたら先ほど怒らせたことへのご機嫌取りかもしれない。それとも気紛れでただ抱かれてやっているだけかも知れない。真実はぬこのみぞ知る。 「あらルイズ。お風呂には入ったみたいね」 食堂へ行く道すがら、キュルケと出会った。彼女の足元には尻尾に炎が灯った大型の真っ赤なトカゲらしきものが居る。決して真っ赤な誓いではないっつーか誓いは見えない。 「おかげ様でね。それでまだ何か用なの?」 「いやねえ、あなたの使い魔を見せてもらったのにこっちの使い魔を見せないのも悪いじゃない?」 キュルケが不敵に笑う。主の意図を読んでか、足元の火蜥蜴が前に進み出た。 「どう!? この子が私が召喚した使い魔、サラマンダーのフレイムよ!」 「名前以外見れば分かるわよ」 キュルケに言われるまでも無くそいつの存在には気づいていた。口からちろちろと炎が迸り、そこに居るだけで周囲の気温が上がっているのだから。これで気づかなければ水のメイジの診断が必要だ。 「見なさいよ、この鮮やかな尻尾の炎! 間違いなく火竜山脈に居た子よ? 火属性の私に相応しい使い魔よね~」 「あ゛ーはいはい良かったわね」 内心の羨望を隠しながらキュルケからさっさと離れようとする。 そう、確かに羨ましかったのだ。レンは確かに夢の中に入り込んでくる特異な能力を持っているようだが、とても主であるメイジを守る、という大役は果たせそうに無い。 さっさと食堂に向かおうとするも、しつこくキュルケは絡んでくる。 「あなたの使い魔も悪くないけど、ちょっと力強さに欠けるわよね~」 「うるっさい! ってちょっとレン。そこまで警戒しなくても大丈夫だってば」 腕の中にいるレンは毛を逆立たせてフレイムを睨んでいる。明らかにキュルケの使い魔を警戒している様子だ。 「へー。主人を守るって意思表示かしら? 中々立派な心がけじゃない。どう、私の使い魔も兼ねてみない?」 「ツェルプストー! あなたどうあっても私と決闘したいみたいねえ!?」 眉をこれでもかと逆立たせてルイズが吠える。いつも携帯している杖にまで手が掛かり、今にも抜き放たれようとしていた。 「冗談よ、じょ、う、だ、ん。でももしあなたがその気なら飼って上げても良いからね、子猫ちゃん?」 レンにぱちりとウインクを飛ばしてキュルケは去っていった。主人に続いてフレイムもぶふっと火炎を吹きながら退場する。ルイズといえば、 「レン! いい!? 金輪際キュルケには近づいちゃダメよ!! 私のヴァリエール家とキュルケのツェルプストー家にはアルビオンよりも高く降り積もった因縁があるんだから!!」 朝から高まっているテンションが更に上昇中だった。彼女の血管が切れないか少々心配である。両手でわっしとレンを掴み、子猫の小さな顔と自分の顔を付き合わせて口角泡を飛ばしていた。 そう、確かに二人の家には浅からぬ因縁があるのである。 まず、ルイズの生家のヴァリエール領とキュルケの生家のツェルプストー家は隣接しているのである。隣接している国の最接近領。 近所の者同士、仲良くできればいいのだがそうも行かなかった。両家は長い歳月において紛争が繰り広げられてきた。お互いに降り積もったわだかまりは易々と拭えるものではない。 またそれだけでなく、ヴァリエール家はツェルプストー家に幾度も婚約者や恋人を奪われてきたのである。このような経緯から、ルイズにしてみればツェルプストーには例え領地の石ころだろうと渡すまいという思いだった。 ルイズはこのような経緯をぜいぜいと息が乱れるまで躍起になって説明していた。そんなルイズを冷めたような瞳で見るレン。聞いてやるだけ良い猫だよ、うん。 「……そうそう、さっき私を守ろうとしてたのは良かったわよ。その調子で頑張りなさいね」 先程のレンの警戒を、ルイズもキュルケと同様に主人を守ろうとしているのだと判断したのだ。お陰で高ぶり続けていた怒りが少しだけ収束に向かう。自分が呼んだ使い魔はなかなか当たりじゃないか、と口元を綻ばせて朝食の席へ向かうルイズだった。 「じゃあ、此処で一旦お別れよ、レン」 貴族用の食堂、アルヴィーズの食堂までメイジと使い魔は辿り着いた。ここも浴室同様、使い魔が入ることはできない。レンは使い魔用の食事へ赴くこととなる。 「使い魔はあっちね。食べ終わったら此処で待ってなさい。それじゃね」 使い魔の食事が置いてある広場への方向を示して自分は食堂へ入る。目に入るのはいつもと変わらぬ贅の尽くされた食卓。それが今日は余計に輝いているように見えて、始祖ブリミルへの感謝を捧げ、普段より多めに食事を採るルイズであった。 食後の満足感を味わいながらレンと合流して教室へと向かう。大分機嫌の良くなったルイズの後ろをレンはとことこついてゆく。程無く教室へと辿り着き、自分の席へと座る。 今日は各々が召喚した使い魔を連れての授業。かなり壮観である。キュルケが召喚したサラマンダーに始まり、バグベアー、ジャイアントモール、果てに風竜など実に多彩だ。 大丈夫、うちのレンだって負けちゃいない……とレンに視線を転じてみると、なにやらかなり周りの使い魔たちを警戒している。体毛は逆立ち、ばっしばっしとせわしなく動く尻尾。 「大丈夫だってば。主人の指示がない限り襲ってきたりなんかしないから」 そう言ってレンの背中を撫でるも、身をよじってレンは避ける。更に座っているルイズから手の届かない位置に座り込んでしまった。 む、と不機嫌になるルイズ。主人が気を使ってやっているというのになんだその態度は。一言文句を言ってやろうと席を立とうとしたところでタイムアップ。今日の授業を担当するミセス・シュヴルーズが教室に入ってきた。 「皆さんおはようございます。昨日の使い魔召喚は無事終わったようですね。先生、毎年生徒の皆さんがどんな使い魔を召喚したのか楽しみにしておりますのよ」 (ああもう。タイミングの悪い……) 教師が入ってきてから席を立つのは行儀が悪い。そんなことを立派な貴族を目指すルイズが出来ようはずもない。胸の中にくすぶりを抱きながら座り直す。 ちらっとレンの様子を横目で見ると、未だに他の使い魔たちへの警戒は解いていないようだった。大丈夫だって言ってるのに、と思いながらルイズは開始された授業へ耳を傾けた。 今日の授業は魔法の属性についての復習だった。誰でも共通して使えるコモン・マジックから始まり、火、水、風、土の4属性。更に現在は失われ、今は伝説となっている系統もあるのだが、6000年も使った人間の記録がないためにこの授業では軽い解説だけで終わった。 そこからメイジのランクについて。メイジの技量は、ドット、ライン、トライアングル、スクウェアとレベルが上昇していき、ランクが上がる度に魔法行使に必要な精神力が上昇し、強力な魔法が使えることの解説だった。 今日の授業内容は、座学の優秀なルイズには、いや他の生徒も皆理解していることだろう。この程度のことはとメイジにとっては常識だ。シュヴルーズ先生も新年度初授業の今日はウォーミングアップのつもりなのだろう。 そんなルイズは授業を真面目に受けるも、頭は他のことを考えていた。考えるのは自身の使い魔のこと。今朝起床したときの様子を考えると、猫の姿の今も人並の知性を有していると見ていいだろう。 今は土のトライアングルとしての力を披露するため、『錬金』の魔法を実演している『赤土』のシュヴルーズのことをじっと見つめている。錬金で石ころが真鍮に変わったときは只でさえ大きい瞳が真ん丸になっていた。そんなに錬金が珍しかったのだろうか。 とにかくレンに関しては聞きたいことが多すぎる。夢魔と言う種族のこと、彼女の使い魔としての力量のこと、そして彼女が居たという世界のこと。これからじっくり聞き出してやろう、とその横顔をじっくり見ていた。それが悪かったのだろう。 「ミス・ヴァリエール。喚んだばかり自分の使い魔が気になるのは分かりますが、授業に集中してくださいね?」 「は、はい!すみません」 先生からの指摘に慌てて答えるももう遅い。周りの生徒がくすくすと忍び笑いを漏らすが、それにも耐えるしかない。今のはどうしようもない自分の失態だ。 「丁度良いですね。ミス・ヴァリエール。貴方に錬金の実践をして貰います。前へ出てきて下さい」 「え!?」 え、その声はルイズが発した物だったが、クラスメイトたちの発したかった言葉も正に同じだった。 「シュヴルーズ先生!」 「なんですか? ミス・ツェルプストー」 「先生は……ルイズの授業を受け持つのは初めてですよね?」 「ええ。ですが彼女の学習態度については聞きいております。とても勉強熱心なメイジだと」 「いや、それは間違っていないんですが……」 「彼女の魔法は危険なんです!」 キュルケの後に言葉を繋げたのは、太っちょの男性メイジ、マリコルヌだった。どうでも良いがマリコルヌって言いにくいし書き難い上誤字りやすい。とある菌糸の人の天敵になれそうだ。 「ちょっと風っぴき! 危険って言うのはどういう事よ!」 「誰が風っぴきだ!? 僕は『風上』のマリコルヌだ! キミの魔法が危険なことはクラスメイト全員がよく分かってるんだ!」 「そうよルイズ。今まで貴方が魔法を使ってきた時のことを思い出してみなさいな」 「ミスタ・グランドプレにミス・ツェルプストー。やる前から否定してはいけません。少々言い過ぎではありませんか?」 「「貴方はルイズの魔法を知らないんです」」 期せずしてハモった二人の声にうんうんと頷くクラスメイトたち。一部我関せずと本を読んでいる奴も居たが。 「実演なら私が「私、やります。やらせて下さい!」 ルイズの代わりにやろうと申し出ようとしたキュルケだったが、他ならぬルイズ自身によってそれは遮られた。クラスメイトたちの怯えるような態度が、ルイズの負けず嫌いの精神を刺激してしまったようだ。 「ルイズ、やめてちょうだい。お願い」 キュルケの制止の言葉ももはや火に油でしかない。ルイズは発火しやすいという意味では正に油だ。ずんずんと壇上へと赴くルイズ。そんなルイズを見ながらクラスメイトたちはそそくさと座席の下へと退避し始めていた。 「ミス・ヴァリエール。貴方が変えたいと思う物を強く心の中に思い浮かべるのです」 シュヴルーズの説明を聞きながら、ルイズは机の上の真鍮を親の敵のように固く見つめていた。 (大丈夫。今日の私は大丈夫。だって……) ちらりとルイズは後ろを振り向く。視線の先には、こちらを見ている赤い双眸が。 (昨日までの私とは違う。サモン・サーヴァント、コントラクト・サーヴァントという魔法を成功してるんだから。できるって信じるの。信じるのよルイズ!) 自分を見てくれている使い魔の視線を感じ、彼女のテンションはMAX最高潮。生涯三回目の魔法成功を成し遂げるべく、呪文を唱えて真鍮へ杖を振り下ろす――! 「――錬金っ!!」 雄叫びのような詠唱と共に、真鍮が光る。 そして、爆発が起こった。 爆発付近にいたシュヴルーズは、爆風に吹き飛ばされて壁に激突。人事不肖に陥った。 「うわ、落ち着けリコ!」 「僕のクヴァーシルが食われたー!」 「またかよ『ゼロ』! ゼロのルイズ!」 「だからあいつに魔法を使わせるなと言ったんだ!」 クラスのメイジたちは爆発を察していたので無事だったが、使い魔たちは突然生じた爆発にパニックを起こしていた。大小様々な動物が暴れ回る中、ルイズへの罵声まで合わさって正に阿鼻叫喚の風景である。 そんな中、爆発を起こしたルイズ本人は煤にまみれているものの無傷である。けほっと咳を一つ吐いて、一言。 「……ちょっと失敗したみたいね」 「「「「「どこがちょっとだ!!!!!」」」」」 『ゼロ』のルイズ。ゼロの所以は成功率ゼロからきている。メイジでありながら魔法の全く使えぬメイジ。それが彼女だった。 爆発により教室はしっちゃかめっちゃか。とても授業が続けられる状態ではない。シュヴルーズも保健室へと連れて行かれ、午前中の授業は中止と相成った。そんな誰もいなくなった教室で、ひとり掃除を行う者が居る。それは、メイド。いいえ、ルイズです。 爆発を起こした罰として、ルイズは教室の掃除を命じられていた。メイジられたと言っても魔法を使って掃除をしろという意味ではない。むしろ魔法を使えば惨劇が再びである。そのことを重々承知している教師は『掃除に魔法の行使禁止』と厳命していた。 眉を吊り上げた不機嫌100%の顔でルイズは掃除をしている。そんな主人を見ているのは言わずもがな、彼女の使い魔のレンだった。 「……なんで、また失敗なのよ」 手を止めて、誰に聞かせるわけでもなくルイズは呟く。視線は床に固定されたまま。声には隠しようのない悔しさが滲み出ていた。 「やっと、昨日魔法が成功したのよ? もう私はゼロじゃない。ゼロじゃないのに……なんで爆発するのよ!?」 手にしていたモップを癇癪のままに叩きつける。そんなことをしても魔法が成功しない事も、教室が片づく訳でないことも分かっている。気分が良くなるわけでもなく、むしろぐちゃぐちゃとした想いが吐き気をもよおす程膨れあがるばかりだ。 それでも、歯を食いしばって泣くのは堪えた。だって、自分の使い魔が見ているのだ。夢の中で見た時は、可憐としか言いようがない外見のクセに、冷たい目でこちらを見ていた幼女。不遜な態度で主人を敬わない使い魔。 それでも、蔑まれるばかりの日常でようやく得ることができた自分の味方。弱みを見せられるわけが無いではないか。 体の中で暴れまわる激情に必死で耐えていると、かたんと足元から物音が。音の方へ目を向けると、レンがモップの柄を咥えてこちらへ差し出していた。 「レン……!!」 使い魔の優しさに今までとは違う感情が沸きあがってくる。最高じゃないか、私の使い魔は! 感極まって自分の使い魔を抱きしめ――ようとして、するっと白猫は抱擁から逃れた。 「ふぇ?」 白猫はそのまま教室の扉へ突撃。教室外へと移動し、あっという間にルイズの視界から消えた。 「……」 ルイズは空気を抱きしめたまま固まっている。その硬直が徐々に憤怒で解けてゆく。ぶるぶると震えながら、先ほどとは違った激情のまま、叫ぶ――! 「あんの、バカ猫ぉーーーー!!!」 前ページ次ページゼロの白猫
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年齢 26歳 分類 Human 身長 1.97m 体重 152kg キラーウェポン 銘刀「鬼丸」「数珠丸」(ONI MARU JUZU MARU)背中に装備した二振りの純粋な日本刀。天下五剣と呼ばれた名刀との噂もある。 ゼロZERO 斬り捨て御免 ビームクナイを駆使した零式忍術の使い手であり、二刀流の達人。人体の潜在能力を強化する漆黒のナノマシンスーツを着用し、潜入系の任務を得意としている。 ドローン軍の新型兵器の開発に必要なデータを採取する為に、異形のミュータントや戦闘用に強化されたサイボーグと闘う。 コードネームは「ゼロ」。かつて忍者と呼ばれた一族の末裔。 特徴 有用な行動ディレイ弱 ダッシュ強 JKW弱 KW強 技表 基本的な立ち回り 連携・コンボ 個別の対策 オススメアビリティニンジャマスター スピードリスポーン スピードレベルアップ その他 特徴 忍者ということで男性キャラクターの中では比較的素早い。 ダッシュ攻撃やKW攻撃のおかげでリーチがある。 所々の性能はレオに近いものがあるが、こちらは中量級のため体力やガード耐久値で勝っている。 有用な行動 ディレイ弱 その後の強もセットでゼロの主力となる技。恐ろしく高いガーブレ率と超性能の追尾が売り 1対1の場面ならこれだけやってれば勝てるといっても過言ではない ダッシュ強 性能はレオに近く、当たれば浮き、先端当てだと弱でそのまま拾える 敵に触りに行く時はこれで。 JKW弱 多段系なので牽制、カット、援護なんにでも使えて便利 KW強 いろんな意味でよく話題になる技。 何が強いのかわからない人はオンラインで演出ヒットした後にそのままもう一度振ってみよう 背後投げの場合相手の向きが反対になるので、一部の相手は起き上がり攻撃をしても当たらない。 ちなみに、溜め二段階の演出移行時はゲーム中最高クラスの2800ダメージ。 乱戦で無視されているときに狙ってみよう。 技表 コマンド コメント ダメージ GB値 弱弱弱弱(通常弱攻撃の4段) 空中の相手を吹っ飛ばせる。 150+150+150+(100+160) 1+1+1+30 弱強 150+360 1+40 弱弱強 150+150+330 1+1+40 弱弱弱強 150+150+150+350 1+1+1+40 強 180 20 強弱 180+150 20+1 強弱強 180+150+450 20+1+40 強強 180+450 20+40 ・弱 200 25 ・弱強 200+320 25+50 弱+ジャンプ(全方位攻撃) 320 10 左スティック2回+強(ダッシュ攻撃) 400 40 強(長押し)(突進攻撃) 320/550 50/95以上 KW+弱弱弱弱(KW弱攻撃の4段) 400+400+400+(300+800) 30+30+30+50 KW+強(KW強攻撃) 1800(演出2400) 95以上 KW+強(長押し)(KW突進攻撃) 1600/2000(演出2800) 50/95以上 ジャンプ上昇中に強(対空攻撃) 350 30 ジャンプ降下中に強(対地攻撃) 580 40 ジャンプ中にKW強(対地KW攻撃) 1600(演出2400) 45 空中で弱(ジャンプ弱攻撃) 200 1 空中でKW+弱(ジャンプKW弱攻撃) 420+420+420+440 30+30+30+30? 前投げ 1000 後投げ 1400 ダウン投げ 1500 基本的な立ち回り ディレイ弱→強→弱KWがメイン。他にもダッシュ強、強KWなど強力な攻撃が多く 乱戦もタイマンもこなせるので、状況判断して動こう 強攻撃は発生こそ遅いが前進するため、後ろステップから早めに出せば三姉妹やマチルダの全方位も容易に狩れる 乱戦では後方からの強KWやダッシュ強、空弱KWでの突撃が有効 レイジ発動中はラッシュでもいいが、広範囲の強KWを連打するのも強い 特に乱戦時はガンガンキルが取れるためひたすらロックオンして撃ちまくるのを推奨 汚いな、さすが忍者きたない 連携・コンボ バグを利用したコンボは賛否両論であり、下手をすれば悪質プレイヤーとして晒される可能性もある。本Wikiでは割愛するので、どうしても使いたければ各自で調べること。 1 強弱→レバ弱・弱強→KW弱×4 ダメージ??? アニャーキーコンボ 一部キャラにはKW弱4段目が当たらない 2 ダッシュ攻撃→弱→KW弱×4 ダメージ??? 3 ダッシュ攻撃→弱弱弱・弱強→KW弱×4 ダメージ??? 4 強→対空攻撃→空中弱→空中KW弱→弱・弱強→KW弱×3 ダメージ??? 空中弱を2回にすることもできるが不安定 5 強→対空攻撃→空中弱弱(弱)→弱・弱強→KW弱弱(弱) ダメージ??? ノーゲージ始動 括弧内はキャラによって入れたり入れなかったり KWゲージ:回復3.1→消費2(3) 個別の対策 ディレイ弱→強の強がガークラ値が高い上当たれば浮く、と非常に厄介なので全力で回避 回避さえすれば強のあとに反撃できる 乱戦時にゼロがいる場合は強KWに注意し構えていたらステップしてみる事 ゼロの全方位は見た目とは裏腹に隙が大きく、ガード後もほとんどのキャラが強を刺せる 落ち着いて対処しよう 強KWを喰らってしまった後はもう1発とんでくる可能性が非常に高いので レバー入れでゴロゴロ→ガードで横ステップ起き上がりを推奨 オススメアビリティ キャラと相性がいいものなど ニンジャマスター キャラ的にネタっぽいがドゥルガーと同じく キャラが素で強すぎるおかげで伸ばすべき部分がない=補助系アビリティで事足りる 見えないゼロがダッシュ強ブンブンしているだけでもかなり脅威になる スピードリスポーン 同じく補助系。必死に倒した相手がすぐに帰ってくるのはなかなか絶望感がある 当然ながらデスしない自信があればあまり必要ない スピードレベルアップ 何かと弱KW4段を入れる機会が多いので、属性効果による毒状態を狙いやすくなる。 その他 レイジラッシュを喰らっている時に全方位を使うと相手のロックオンが外れる 後ろを向いて再度殴ればいいのだが他キャラより一手間かかるので嫌がらせにはなる 英語音声にするとエセ忍者臭がパワーアップする。 シリアス系なキャラは一切消え、完全に「はっちゃけNINJA」になるので 興味のある人はお試しあれ。 そこにはゼロの新しいキャラクター性が秘められているだろう…バンザァーイ!! 空中KW強〆の有用なコンボお願い - 名無しさん 2012-07-20 00 00 17 基本コンボだけですごい威力出るねこのキャラ - 名無しさん 2012-07-23 02 58 44 何か最近のマルチゼロ多く見るようになってきた…しゃあないから使うキャラ変えたわ - 名無しさん 2012-07-23 07 35 30 そんなこと言ってたらサーシャくらいしか使えるキャラ居なくなっちゃうじゃん。好きなキャラ使えばいいのに - 名無しさん 2012-07-23 17 34 59 同じキャラが2人以上いるっていうのが俺にとってはすごい違和感(?)があるんだよなー 今はジャックとダグラスを中心に使ってる - 名無しさん 2012-07-23 17 43 07 最近バグコン使用有無に関わらず高性能だからか嫌われるゼロ、二重KW強は回避するの困難だし叩かれんのもわかるけどね、まあ無秩序なんで気にせずガンガン使いますw - 名無しさん 2012-07-23 19 23 15 ぶっちゃけバグネッタ以外はそう大差ないと思うよ。バグネッタは嫌われても仕方ないレベル - 名無しさん 2012-07-23 23 03 00 俺がゼロで100キルする前とかほとんどいなかったのになぁ… 今はこんなに増えちまったよw なんかこういうのって寂しいんだよね…w - 名無しさん 2012-07-23 19 54 45 ミサワ乙 - 名無しさん 2012-07-24 17 36 58 ↑↑ばかじゃねーのw - 名無しさん 2012-07-25 05 58 39 ばかではない てか朝早くからご苦労だな - 名無しさん 2012-07-25 08 00 50 KW強×2は回避不能なのか?誰か回避できた人いる?報告求む!でも自分はKW強×2をガンガン使うぜw - 名無しさん 2012-07-26 17 40 14 完全に回避不能ってわけじゃなさそう 前当たらなかったときあったからね。まぁもしかしたらラグの影響かもしれないけどとりあえず避けれた 個別の対策にも書いてることもちょっとやってみようと思う - 名無しさん 2012-07-27 11 10 32 CPU相手だとガードされるんだけど、対人で食らうとゴロゴロでも回避連打でも避けられなかった覚えが…マジ理不尽 - 名無しさん 2012-07-29 13 14 12 KW強2発目、ゴロゴロで真横に逃げられると結構外れます - 名無しさん 2012-08-20 09 19 00 ダッシュ攻撃→弱→ダッシュ攻撃でガードブレイクが結構決まります。相手がステマスでも見てから回避しない人だったら弱をすかした後すぐダッシュ攻撃で大体壊せます。 - 名無しさん 2012-07-31 03 04 24 バトロイでバグコン決められた後,見知らぬダグラスが助けに来てくれた時はマジ胸熱ウァハーイ! - 名無しさん 2012-08-03 21 47 35 バトロイは助けに来るとは言わないんじゃw - 名無しさん 2012-08-05 00 27 36 バトロイだからこそでは?本来、敵対してるはずなのに助けてくれたのが胸熱なのかも 二人ともターゲットだったかもしれんし - 名無しさん 2012-08-05 18 02 24 やっとGB値が……すばらしい - 名無しさん 2012-09-05 01 33 00 名前